大きく頷いて、彼女の隣へと戻ろうとする彼の背中に、ついでに言っておく。
「今の相談料は“例の俺の写真”を削除してくれるだけでいいから」
「何言ってるんですか。お代ならとっくに払ってますよ」
「え? ……何を?」
「今あんたの胃の中です」
それじゃ――そう言って帰って行った彼は、少しだけ笑えていた。
だからまあ、まだ弱みは握られたままだけれど、よしと思うことにしておこう。何かあったら『あのこと俺が言うぞ!?』って脅してやるっ。
――――――…………
――――……
「……多分、聞いていたら葵は悩んでいないはずだ」
楽しかったパーティーや、彼との秘密の話を思い出し、また一口コーヒーを飲んで、俺は後ろにもたれ掛かる。
……酷く、体が重い。これは、目の前に連なる書類の山のせいなのか、それとも……。
「でも、それを悩んでた。……ということはだ」
彼から相談を受け、どれだけの時間が過ぎただろう。
もう、あの子自身も今までのことに関して整理はできているはず。
「……どうするつもりなんだ、日向くん」
そのことが頭に引っ掛かりながらも、仕事の処理に追われていた俺は、まだ熱いコーヒーを一気に飲み干して作業に取り掛かることしかできなかった。
そして訪れる熱海旅行当日。
さすがにもう聞いたのだろうと思っていた俺は、てっきり冗談を交えて彼女はあんなことを言ったのだと思っていた。
内容が内容で、公言できるようなものではないし、そもそも誰かに言えたとしても、俄には信じてもらえない。わかってはもらえない。
だから、俺は知らなかった。
わざわざ体育祭に来てまで喧嘩を売ってやったのに、彼がようやくそのことを彼女に言えたのが、凍えるような寒さを迎える冬前だったということを――――。
「あ、そうだ楓。葵と熱海行ってくるから、付いてきてねー」
「は? お前出歩けるような状況じゃ」
「大丈夫大丈夫。ばっちり変装していくからね(キラリン)」
「……拒否権は」
「無し!」
「(……ユズ、すまん。これも仕事だ)」



