「……え。熱海?」


 彼女がちょうど昼休みの頃を見計らい、毎日のようにかけていた電話だったが、今日は珍しく向こうの方からかかってきた。
 書類の山を処理しながら、俺は首を傾げた。


「俺の誕生日会完全にカットしたくせに?」

『それで、生徒会メンバー+αで行くんだけど、シントもどうかなって』


 聞いちゃいないし。
 まあ、誕生日ネタは電話かける度にしてるから相手にする時間の無駄とでも思われたのだろう。実際やってもらえただけで嬉しかったのは事実だし。……ま、期待は裏切られたけど。


「最近酷いよね。絶対当日は二人っきりだと思ってたのに」

『だからそれは、みんなもシントを祝いたいだろうと思って。シントも、みんなから祝われて嬉しかったでしょ?』

「否定はしないけど物足りない」

『欲張りさんだなあ』


 きっと、経験の浅い彼女だけなら、何も考えずに俺と二人きりの誕生日を選んでくれたはずだ。
 しかも誕生日が近いからという理由で理事長や杜真くん、紀紗ちゃんと一緒に、引っくるめてお祝いされたのだ。俺だけならさすがにここまで文句は言わない。

 ……絶対に知恵を貸した奴がいる。俺はそれに見当がついている。


『でも楽しかったでしょう?』

「……うん」


 家でこんなに素敵な誕生日を祝ったのは、本当に久し振りだった。今までみたいに、葵と二人きりの誕生日パーティーも楽しかったけど、それとはまた別で。
 ……うん。本当に楽しいパーティーだった。


「それじゃあ先約! 葵の誕生日は二人っきりで過ごそうねー」

『それで? どうする? 行けそう……?』

「やっぱり最近いつにも況して酷いよね」

『今年からはちょっと無理そうかも。ごめんね』

「そんな風に言わないでよ。こっちが申し訳なくなるじゃん」

『だったらわかってること訊かないでね』

「は、はい」


 にしても、…………熱海か。