「……ひなた?」
呼んではみましたが、顎に手を当てたままなんかものすごい真剣な顔しておられるのですが。
「……あの」
なんならもう一回呼んでみましょうか?
そう尋ねた声は、「うーん……」と悩んでいる彼の声によって掻き消されてしまった。どうやら、彼にとってはものすごく大きな悩み事らしい。
「えーっと、ひなた……くん?」
「……うん」
「だ、大丈夫?」
「いや、なんか変わると思ったんだけど……」
そして見上げて一言「変わんないもんだね」と、なぜか可笑しげに笑った。
「変わんなくて、よかった?」
「ん? さあ、どうだろうか」
「もう、意地悪しないで教えてよ」
「じゃあそれは、コーヒー買ってきてくれたらね」
そんなこと言われたら、行くしかないじゃないか。
けど、この表情を見たら、たいした悩みじゃなかったのかなって。解決したのかなって。
「それじゃあ行ってくる。……理事長室で待ち合わせする?」
「いや、あおいが帰ってくるまで待、……って……」
「……え。ひっ、ヒナタくん?」
そう思っていたそばから、そこまで言いかけた彼の顔色が、何故か急に悪くなった。
慌てた様子で、一度自分の口を手で塞いだ。
「ヒナタくん、大丈ぶ」
「あと3分間はここにいるかな」
「えっ?」
「喉がカラカラってこと」
と、いうことでと。
先程のことがまるで気のせいだったかのように、にっと笑った彼は、自分の財布を渡して軽く手を上げた。別に、コーヒー代くらい出すのに。
「……すぐ、帰ってくるから。ここから動かないでね!」
「体調悪かったら保健室に行って休んでること!」と、それだけ口早に告げ、わたしは一目散に自販機へと走ったのだった。



