すべての花へそして君へ②


 あちら側の世界では、すべての言葉や行動に意味を成し、それぞれに大きな影響力を及ぼしてくる。先程のことなど、比ではないほどに。


「正直、どう思った?」

「マジ面倒くせえ」

「あはっ。正直者め」


 だからそれに囚われずに、わたしは今したいことをした。
 やりたいと思ったことを我慢せず、それはもう思い切り。彼を振り回すことさえ厭わずに。


「思ったことを思った通りに言えないのは、溜まるよね」

「何がかな」

「……一番近い言葉で言ったら、フラストレーション?」


 そう言って、彼はハッと気付いたように目を開く。


「それがいつの日か押さえられなくなって、馬鹿になった蓋から溢れて止められなくなったら。……君は、そうなってしまった人たちの末路を知っている」

「……」

「だから、言えるときに言わないといけないの。あちらの世界で生きていくのなら尚更ね」


 そこまで言うと、彼は徐に起き上がって何かを言いたげに顔を向けた。


「ヒナタくん……」


 けれど、何も言葉にできないまま少しだけ苦しそうに顔を歪ませ。代わりに堅く手を握って、頭からもたれかかってくる。
 やさしい彼に、ただ愛おしさが募った。
 それでも、乗っかってきた頭を撫でることしかできなかったわたしは、そっと続きを話すことにした。


「タカトは、わたしたちにそうはなって欲しくないから、あんなことを言ったんだ」

「それは、あの人だって同じことじゃ」

「そうだね。でも、タカトがそうだからって、わたしが、ヒナタくんが、そうであるとは限らないよね」

「……ん?」

「タカトが言ったのは、あくまでも一つの対処法。でも、そんなことする必要、今後わたしたちにあるのかな」

「……どういうこと」

「正直でいることが、自分が思っているよりも案外難しいってこと」


 大人の壁、政治の思惑、資産家の駆け引き。
 そこで飛び交うのは、本音を取り繕った紛い物の言葉たち。

 どこで誰が、目を光らせているかわからない。
 彼らの発言力は大きく、代わりに彼らの言葉に気持ちが感じられることは……あまりない。


「ニュースとか見てて思わない? 何で大人は正直に話さないんだろうって。素直にごめんなさいって言えないんだろうって。幼稚園児だって、悪いことしたら謝れるのにね」


 でも彼らの立場上、話せない部分がある。
 誰かを守るためか。はたまた私利私欲のためにか。


「でもね、もしわたしがそういう世界に入ったとしても、わたしの本質は変わらないよ。変えたくないよ。どこでも言葉には気持ちを乗せたい。隠すのは自分のためじゃなくて誰かを傷付けないようにするときだけ。もちろん、善と悪はハッキリさせて」