どうやら何か思うところがあったらしい彼が、眉根を寄せ声の音量を下げて少し切羽詰まったように言葉を紡いだ。
「だったら今、あいつから目を離さない方がいいんじゃないの」
そう。彼は今ここで、誰かの反感を買って出たのだ。
それは、どこかで聞いている本家の人間か。はたまた、わたしと縁談を結ぼうとしている家の人間か。若しくは、ヒナタくんとわたしの仲をよく思っていない人間か。
それに気が付いてくれた、さすが自慢の彼氏さん。心の中で拍手喝采していると、彼がタカトを追いかけていきそうになったので、慌ててそれを止めた。
「ぐえっ」
「大丈夫大丈夫。それも、タカトはちゃんとわかってる」
「……だったらなんで」
「タカトは、わたしが今、ここで今までのことを話すだろうってわかってたから」
「っ、だからなんで」
「言ったでしょう? だから彼は、君がいる時を選んだと」
さすがのヒナタくんでも、彼が意図していることを1から10すべてわかることはまず無理だ。何故なら、この封筒の中身と話が一致しないことで、君が頭を抱えることははじめから予想されていたのだから。
「彼がここへ赴いた理由と、表の用件と裏の表明。それらをわたしはここで、君に話をした。彼の思惑通りに。そう、声に出して」
最終的に彼が成したかったのは、恐らく“後者の方”だから。
【彼等への悪意は、朝日向葵への悪意と同じであり、わたしを敵と見なす行為である】
「……待、て。もしかしてさっきオレが言ったこと……」
「うん。タカトはそこまでわかってたと思うよ?」
――朝日向葵は、決して“友”を裏切る人間ではない。
「ま、そういうことを、彼はさっきの一瞬でここに示しちゃったわけねー」
公の場ではないにしても、誰かしらが今の話を聞いたり、わたしたちが一緒にいたところを目撃している。
確かに、いずれは庇護下云々の話もしたいなと思ってはいた。だから、彼のちょっとした小芝居にも乗ったんだ。けれど、わたしたちの中で明らかに違ったのは、その優先順位度。今の彼らにとって一番大事なのは、自分たちを守ってくれる後ろ盾だ。
(しかもメール送ったら、《勝手に王子様像としてご利用した分として戴いとくよ》って返事来たんだけどっ。明らかに払いすぎだから。お釣り絶対に返して貰わなきゃ……)
それを彼は、颯爽と築き上げてしまったのだ。
わたしと、友達だということを、思う存分利用して。
それから再び文化祭を見て回り始めたけれど、ヒナタくんはまだ頭を悩ませているようで、覗き込んでみると小難しい顔をしていた。
「……もしかしなくても、シントさんもそんな意図が」
「ん? そうだね。全く同じとは言い切れないけど、シントにも何かしら考えがあったんだと思うよ」



