すべての花へそして君へ②


「あのさ、そうだったにしても他の情報受け取りすぎじゃない? それも連絡で遣り取りしてたわけ」

「ヒナタくんヒナタくん!」

「ん? 何」

「まず、ここはどこですか?」


 両手を広げながらそう聞くと、辺りをぐるりと一周見渡して、彼は首を傾げながら「桜ヶ丘?」と答える。
 それにはうんうんと頷き、ビシッと一本指を立てた。


「人がいっぱいいるよね。今日は特に文化祭だし、一般開放してるからいろんな人がいる」

「そうだね」

「それでもタカトはこれを持ってきて、わたしに【縁談】を申し込んだ。そうだよね?」

「うん。表向きは?」

「そう! そして彼は、わざと君といる時を選んだ。それも本人がここに来て、そして目の前で手渡し」

「……そうだね。正直腹立ったけど」

「そこ! ヒナタくん。タカトはなんて言ってた?」

「え?」


 彼はこう言ってた。

『もう返事とか聞かなくてもわかってるし、君がいるのに隠したらそれこそ気分悪いだろうからハッキリ言うね』

 ……と。


「彼は頭がいいよ。もうわかってるだろうけど、アイくんやカオルくんよりも。だから、必要最低限の情報だけ渡してさっさと帰った。次期当主が赴いたのは、ここにいる人たちに示したかったからなんだ」

「……要は」

「要はね――――」


【朝日向葵並びにその恋人への悪意は、我々への悪意と同等であり、我らを敵に回す同意である】


 まずはわたしとの関係性。
 わたしの口から交友があると言わせることで情報の信憑性を示し、そして表向きは本家の思惑通り、縁談の相手であることをここに公表した。


「公表って言ってもここにいる人たちだけで、口伝えに広がったとしても小規模。それに勿論それは表向きのこと。このあとに続く、“そうではなく”というところの方が大事になる」


 事件に関与していた人たちがいなくなったからといって、今までの考えが変わるわけでも、古狸たちが全くいなくなったというわけでもない。
 そのご本家様のご意向通りに動いたところで、結局は信頼を得る云々以前の問題。どうやっても落ちていくスピードをどこまで緩められるかぐらいが関の山だ。世間の目も、この世界も、そう甘くはない。


「だから本家ではなく、家を任された当主はまず、わたしに届けるべきである縁談の話を伝えないことで、本家の意向に背く意思があるという決意を表明した」


 そして彼は、君にも示したかったんだ。
 僕たちは決して君に隠し事はしないと。疚しいことなど一つもないと。


「……なんでオレ?」

「わたしたちを応援してますよってこと。言ったでしょ? 交友関係。僕たちはただの“友人”だって」


 だから彼は言っていた。直接ヒナタくんに「気分悪くさせてごめんね」と。
 君に正直でありたかったから、それも承知の上で“今”を選んだんだ。


(『彼らの邪魔をする者は僕が許さない』って、他への牽制も多分入ってたんだろうけど、それは言わなくていいかな)