そんなわたしたちのやりとりに小さく笑いながら、「実は葵に渡すものがあって」と、彼は鞄から一通の封筒をこちらに手渡してくる。
「勘違いしないで欲しいんだけど、葵の劇を見に来たかったのも本当だよ。女の子を誑かしに来たのも本当だけど」
「いやいや、何しに来てるの……」
「可愛い女の子に罪はないからね」
「……で、これは何ですか?」
「うん。もう返事とか聞かなくてもわかってるし、君がいるのに隠したらそれこそ気分悪いだろうからハッキリ言うね」
それは、縁談関係の書類。
僕から、朝日向葵さんへ。
「僕や父が欲しいのは、この話がきちんとあなたの元へ行ったという証明だけです」
「まあ、本家はイエスの返事まで欲しいんでしょうけど」と、彼はわたしの隣に立つヒナタくんへ視線を向ける。
「ごめんね。気分悪くさせて」
「いえ、そんなことは」
言葉を繕おうとするヒナタくんに、「思ったことは、言えるときにハッキリと伝えた方がいいよ」と、タカトは可笑しそうに笑った。
諭すように、けれど決して嫌みではない言葉に一度躊躇いながら、ヒナタくんは僅かに俯く。
「すみません、いい気はしません。でも、あなたにとってなくてはならないことならオレに止める権利はありません。……それに」
「……それに?」
「友達が困っているとわかって、放っておけるほどこいつ図太い神経してないんです。大事な友達が困っているなら手を貸す。こいつはそういう奴なんですよ」
「……そっか。うん、そうだよね」
そんなヒナタくんに、今度は嬉しそうに笑った後、タカトは続けて意地の悪い笑みを浮かべた。
「でも、物分かりがよすぎると、我慢の蓋がいつか本当に閉じなくなるよ」
「……え?」
「僕の尊敬する人の教え。だからぶっちゃけて言っちゃうけど、結べるなら僕は結んじゃいたいなと思ってるよ。葵との縁談」
「なっ!」
「おお、ハッキリ言うねえタカト」
ヒナタくんの警戒心がさらにアップ▼
けれど、そんな様子の彼を見て、タカトはふっと頬を緩めた。
「そうそうその調子。ちゃんと葵を繋いでおくこと。彼女を狙っている人は多いだろうからね。過去も、そしてこの先の未来でも」



