『……もうひとつ』
『……!!』
どえらい低い声が、体に響いた。
『忘れてたって? あんた忘れたことなんかないじゃん』
『い、いや。確かにそうなんだけど……なんかこう、目の前のことに必死になってたら、息することすら忘れてて……?』
『息はして』
『ヘイ』
きっと、肩口からこちらを睨んでいるんだろう。そんな気配がするけれども。
さすがに今、この至近距離で、その目と、……目を合わせる勇気はありません。
『……はあ。それで? 息止めて潜水してモミジまで見つけてきたと。そういうことですか』
『そ、そういうことですう……』
怖いよ~。とっても怖いよ~。確かに酸素ボンベを勝手な判断で換えたのは悪かったよ~。ごめんちゃい。
また脱力したらしい彼は、『寿命が縮む』と一言。目一杯の安堵と一緒に吐き出した。
『す、すんません』
『ううん。オレも、軽率だった』
『……ううん。心配して慌ててきてくれたんでしょ? ありがと』
『……もう。無事なら何でもいいよ』
腰に回ってきた弱々しい力に、小さくポンポンと頭を撫でた。
『ごめん、危うく聞き流すところだったんだけど。アオイちゃん、今……なんて』
『あ。……ごめんなざい。勝手なごどじで』
『いやいや。確かにそれも大事だけれど、無事だったからそれは一先ず置いておいて。……今、“見つかった”って』
『あ。……はい』
モミジさん、見つけました。
その言葉を、どれだけ待ち侘びただろうか。それはきっと、それを聞いて心の底から喜びが溢れるほど。
公安の人も、そして一緒に来てくれたみんなも。本当に嬉しそうに笑ってくれた。……それに混じって、『長かった。本当に長かった……』と、解放感に満ちた声まで上がっていたけど。
『じゃあシャワーを浴びる前に、その場所だけ教えてくれるかしら』
『はいっ。もちろんです!』
……本当に、よかった。



