「だから今はこれだけ」と。にっこり笑った彼は、微かに唇を掠めるキスをした。
「……あた、あたしが足りません……」
「じゃあ、……どうぞ?」
やさしい笑顔で手を広げた彼に、ぷうっと頬を膨らませて。
むぎゅーっと抱きつくと彼もまた、思い切り抱きしめてくれた。
「そう言われたらできないっ」
「いいじゃん別に」
「え?」
「だって、これからずっと一緒にいるんだから。今したらなんか……もったいない」
「……かなくん」
「だから、これから二人で考えよう? 二人で一緒に、幸せになれる方法」
「うん……」
「……あれ? 何か納得いかない?」
「……やっぱり、あれだけじゃ足りない」
「いやいやいや! だからって初っ端下からはおかしいから!」
「だったら上ならOKなのか。あいわかった」
「わあー! ちょ、ユズちゃん、お願いだから落ち着いて」
「観念するんだかなくん」
「待って! 待ってユズちゃん! ここはね? そう、いろいろ順番を守って」
「かなくんに合わせてたらあたし、すぐに三十歳超えそうだもん。はい、ということでバンザイしてー」
「しないって……! と、取り敢えず元気になったんなら一緒に文化祭まわろうよ! ね!?」
「……うむ。それはとっても魅力的」
「で、でしょ……? だから、ひとまず一旦俺の上から降りて――」
――――ガラガラッ。
その時、保健室の扉が、なかなかの勢いで開いた。そこにいたのは、白衣を着た長身の男性。恐らく彼が先程話していた臨時の養護教諭の方だろう。
あたしとかなくんは、完全に説明できないこの状況をどうしたもんかと、彼の瞳を見つめながら冷や汗を垂らしていた。
「元気そうならよかった」
けれど彼は、おかしそうに笑って「やるんだったらちゃんと鍵閉めとけよ。代わりにやっといてやる」それだけ言って、再び保健室を後にした。
「ちょっ、……松本先生!!?? 助けてくださいよー!」
「やっぱり先にかなくんを味見させてください。許可ももらった」
「えっ、ちょ……ユズちゃん肉食過ぎ! お願いだから一旦落ち着いてってば!!」
若干涙目の可愛い彼を目の前に、やめろと言われてやめられる人がいるなら連れてきてくださーいっ。
「大好きだよ! かなくんっ」
……やっと。やっと、掴めた。



