すべての花へそして君へ②


 俯いていると、静かに椅子から降りた彼は、ぽすんと布団の上に頭を置いてこちらを見上げてくる。


「俺が組継ぐって思ってたんでしょ」

「……うん」

「まあ普通はね。そうだろうね。けどうちは違うし、そもそも借り返してもらわないと」

「……かり?」

「そう。俺とユズちゃんにいろいろしやがったから。それくらいはしてもらわないと。俺の気が済まない」

「……かなくん」

「これくらい。大事な一人息子のお願い、聞けないようじゃ五十嵐の名が廃るよ」

「はは。いい人たちだから、あんまり無理言って困らせちゃダメだよ?」

「あ。……ユズちゃんがあいつらの肩持つー」

「ふふ。ほどほどにね?」


 やっと笑ってくれたと、彼はほっと安堵の息を漏らして、そのまま俯せた。


「……はじめは、縁を切ることも考えた。俺のやりたいことのためには、家は重荷にしかならないと思ったから。でも、俺にとってはやっぱり大事な場所で、そう簡単に切り離せるものじゃなくて、親父をひとりぼっちにさせるのは嫌で」

「……かなくん」

「すぐに継ぐ道を選ばないだけで、俺はいずれ自分の大事な場所を守りに戻るつもりではいる。どっちも諦めきれないから、親父に猶予をもらうんだ」

「そっか」

「だから、その猶予の間だけでもいい。君の隣にいられる未来が。資格が、俺は欲しい」

「……えっ」


 くぐもっていた。もしかしたらあたしの、都合のいい聞き間違いかもしれないと思うほどの、とても小さな声だった。


「我が儘な俺でごめん。いい加減な俺でごめん。振ったくせにふらふら戻ってくるような、最低な俺でごめん。でも、今の俺にできるのは、頑張ってもこれだけなんだ。何とかユズちゃんを繋ぎ止めたい一心で、君に伝えられるのは確定じゃなくてただの口約束」

「かな、くん」

「それでも、今まで最低なことをしてきたってわかってるけど、ユズちゃんの隣にいられるのは俺がいい。他の男の隣で、笑って欲しくない」

「かなくん……」

「俺の未来に、ユズちゃんが欲しい」

「…………」


 ……なんというか。


「ぷろぽーず、みたい……」

「え」


 思わず出てしまった言葉に、慌てて口を塞ぐ。
 けれど、そんなあたしを見て、彼はふはっとおかしそうに噴き出した。


「ほんとだ」

「……だ、だよね? もう、かなくんったらいきなり何を言い出すかと思えば」

「でも、間違いじゃないよ」

「……えっ」