俯いていると、静かに椅子から降りた彼は、ぽすんと布団の上に頭を置いてこちらを見上げてくる。
「俺が組継ぐって思ってたんでしょ」
「……うん」
「まあ普通はね。そうだろうね。けどうちは違うし、そもそも借り返してもらわないと」
「……かり?」
「そう。俺とユズちゃんにいろいろしやがったから。それくらいはしてもらわないと。俺の気が済まない」
「……かなくん」
「これくらい。大事な一人息子のお願い、聞けないようじゃ五十嵐の名が廃るよ」
「はは。いい人たちだから、あんまり無理言って困らせちゃダメだよ?」
「あ。……ユズちゃんがあいつらの肩持つー」
「ふふ。ほどほどにね?」
やっと笑ってくれたと、彼はほっと安堵の息を漏らして、そのまま俯せた。
「……はじめは、縁を切ることも考えた。俺のやりたいことのためには、家は重荷にしかならないと思ったから。でも、俺にとってはやっぱり大事な場所で、そう簡単に切り離せるものじゃなくて、親父をひとりぼっちにさせるのは嫌で」
「……かなくん」
「すぐに継ぐ道を選ばないだけで、俺はいずれ自分の大事な場所を守りに戻るつもりではいる。どっちも諦めきれないから、親父に猶予をもらうんだ」
「そっか」
「だから、その猶予の間だけでもいい。君の隣にいられる未来が。資格が、俺は欲しい」
「……えっ」
くぐもっていた。もしかしたらあたしの、都合のいい聞き間違いかもしれないと思うほどの、とても小さな声だった。
「我が儘な俺でごめん。いい加減な俺でごめん。振ったくせにふらふら戻ってくるような、最低な俺でごめん。でも、今の俺にできるのは、頑張ってもこれだけなんだ。何とかユズちゃんを繋ぎ止めたい一心で、君に伝えられるのは確定じゃなくてただの口約束」
「かな、くん」
「それでも、今まで最低なことをしてきたってわかってるけど、ユズちゃんの隣にいられるのは俺がいい。他の男の隣で、笑って欲しくない」
「かなくん……」
「俺の未来に、ユズちゃんが欲しい」
「…………」
……なんというか。
「ぷろぽーず、みたい……」
「え」
思わず出てしまった言葉に、慌てて口を塞ぐ。
けれど、そんなあたしを見て、彼はふはっとおかしそうに噴き出した。
「ほんとだ」
「……だ、だよね? もう、かなくんったらいきなり何を言い出すかと思えば」
「でも、間違いじゃないよ」
「……えっ」



