でも、それももう終わりにしよう。大好きな彼には、少しでも素敵な女の子に見られたいから。
「今日ここに来た一番の目的は、さっきも言った。もう頑張ることをやめる。それを言いに来た。かなくんにはきちんと言っておきたかったから」
「その理由は、俺が邪魔だからでしょ」
「違っ、そんなこと思ったことない。ただ、叶えたい未来があるの。そこで、あたしの隣にいるのはかなくんじゃない」
「んーまあ、言ってることは一緒なんだけどね。だから俺が傷ついてることには変わりないんだけど」
「……ご、ごめん、なさい……」
「うん、いいよ。俺だって今までユズちゃんのことたくさん傷付けてきたし。それに、言ったでしょ。予想してたって」
はじめからわかっていたと、それでも彼は、やっぱりやさしい顔で笑う。
……なんで、笑えるんだろう。今、あなたを傷付けているあたしは、こんなにもつらいのに。苦しいのに。
「そこで! やっとこの人生の参考書の出番なわけだよ!」
「……え?」
そうして、先程までしていたカバーを外し、彼はあたしの手にその本を持たせる。
手の平にやってきた彼の大事な本を見てみると、それは漫画本のようだった。タイトルはひらがな四文字で、表紙の女の先生が眼鏡をかけてて……って。
「……か、かなくん……?」
「あれ? ユズちゃん知らない? これ、実写化もアニメ化もしててね、俺単行本全部揃えてるんだけど……」
「もちろん知ってるよ! 大好きだったもん! 録画してたし!」
「ほんと! いいよねー。極道の跡取り娘である先生が、不良生徒を型破りな方法で叩き直してー」
「いいよねいいよね! 結構感動するし! スカッとするし!」
「かっこいいよね! 先生もだけど、生徒たちが成長する姿とかも! それに好意を寄せるだけじゃなくてこう……先生の支えになるっていうのがまたぐっと」
「わっかるー!!!!」
……って、完全に話題逸れちゃったし。
いや、確かにすごくいい本だし、これは人生の参考書にもなりそうだけど。
「……ユズちゃん、俺ね」
先生に、なりたいんだ。
「きっかけは多分、コズエ先生だと思う。たとえ先生にとっては仕事だったとしても、先生がいたから今の俺がある。今こうして、ユズちゃんと向き合っていられる」
あたし、かなくんのこと好きなくせに、全然わかってなかった。自分のことばっかりで、すごく今、恥ずかしい。顔が上げられない。
「俺みたいな子が……いないのが一番だけど、いたら助けてあげたいなって思うんだよね。自分がそうだった分余計」
「…………」
「確かに、俺が五十嵐組の跡取り息子に変わりはない。それに代わりもいない。一人息子だからね。けど、だからって将来が絶対決まってるわけじゃない。他の組は知らない。でもうちは違う」
「…………」
「世間に出て見られ方は変わると思う。でも、だからって俺は、自分がやりたいことを曲げるつもりはないし、組だってそんな俺を応援してくれると思う」
「…………」
「ユズちゃん知ってるでしょ? うちの組が、どんな奴らの集まりか。もちろんしっかりとしないといけないところはある。けど基本緩いんだよ。……やさしいんだよ、みんなさ」
「……う、ん」



