『アオイちゃんごめんなさい!! こっちの手違いで、残りの少ない酸素ボンベを渡しちゃったみたいで!』


 甲板に上がってすぐ、大きなタオルごと抱き締めてくれたサラさん。どうやらその酸素ボンベの行方がわからず、わたしに渡してしまったのがそれではないかと。それで慌てて船を動かそうと思ったけど、エンジンを切っててすぐには動かせずにいたと。
 ……なるほど。だからヒナタくんは、待てずにそのまま飛び込んできてしまったと。そういうことかい。


『粗方準備運動はした』

『粗方て……』


 同じく、わたしよりもたくさんのタオルにぐるぐる巻きにされたヒナタくんは、まるで季節外れの雪だるまのようだった。


『…………る』

『え?』

『……ううん。なんでもない』


 その雪だるまさんは、わたしの肩に頭を置き、重い重い息を吐いていた。余程心配したんだろう。完全に脱力してる彼を、抱き締めるように支えてあげる。
 ……でもひとつ。とてもあとが怖いですが、お伝えせねばならぬことが。


『あの~……。酸素ボンベ、残りが少なかったのでわたし、勝手に換えさせてもらったんです』

『……え』

『それで、すみません。どこに置けばいいかわからなくて。えーっと……。ここに置いたんですけど』


 船内地図を指差しながら、ボンベの置いた部屋の名前だけは覚えていたから、そこを指差す。そしたらなぜか知らないけれど、サラさんを始めその場の全員が『え』の形の口のまま固まってしまった。ゆ、雪だるまさんは、見えないからわかんないけど。


『え……っと。で、でも! 酸素ボンベは必要なかったです! ていうか、言われるまで背負ってるの忘れてました!』

『……は?』

『え。……えーっと?』

『はあ?』


 えー……。そう言ったら、肩口から顔を上げた雪だるマンがものすごい形相で睨んでくるんですけれどー。怖い。ただ只管怖い。


『ちょ、ちょっと待って? いろいろ突っ込みどころが満載だわ……』

『え?』

『まずひとつ。……アオイちゃん。あなた酸素ボンベを使ったことがあるの?』

『……??』

『確かに、使い方はササッと教えたけれど……』


『あたしは、酸素ボンベを使うほど潜ること自体、初めてだと思っていたんだけど?』と、そう聞いてくる彼女に、首を傾げながらも素直に頷く。


『そうですね。実物は初めて見ました』


『でも、使い方とか残量の確認とかは今まで見てきたいろんな本にあったので……』と言うと、大きなため息を落とされた。