「……いやだ」
「……え」
「やめないでよ」
「……かな、くん……?」
「何それ。俺のこと嫌いになった?」
「えっ。ち、ちが」
「だったらどういうこと!」
「――!?」
「さっきユズちゃん怖いって言った。怖いってそういうことじゃないの」
「…………」
「……お願いだから、黙ってないで何とか言ってよ……」そう言って、彼は脱力したように、頭を俯かせる。
そんな彼を見て、彼の言葉を聞いて、さっき起こったのは決して夢でも幻でもないのだと。やっと、自分の中で認識できた。
「……いの」
「え? ……えっ!? ゆ、ユズちゃん……」
理解したら、もう涙が止まらなかった。
「……きらわれて、ないの……?」
「……えっ?」
「あた、あたし。かなくんにきらわれたかと。おもっ……」
「いやそれこっちの台詞。なんでそんなこと思ったの」
「だ、だってかなくん熱海で……」
「うん」
「よ、夜にお誘い、くれたじゃないですか……」
「ん? そうだね。そう……だけど?」
「星、……見に行ったじゃないですか」
「う、うん」
「その時……」
「その時……?」
「俺、なんかしたっけ」と、彼は腕を組んで頭を捻っている。
「……それだけで、終わったじゃないですか」
「え。あ、うん。……え? それ? いや、まああのときはノープランだったというか、勢いで行ったから……」
「特に何もなかったけど、かなくんずっとため息ついてて……」
「え」
「だから、ちょっとでも楽しんでもらいたくて頑張って話して」
「えっ」
「……それでもやっぱり、話が止まったらかなくんずっとため息ばっかで」
「ええ!? ちょ、ちょっと待って……? ため息ついてたの、俺」
「うん」
「……ずっと?」
「うん」
「うわ。それ最低だね……」
「マジかー……」と、今度は頭を抱えている。
「はあ。それは、怖かったね。ごめん。完全に無意識だよ」
「……うん」
「あと、ため息ついてたのは多分、緊張してたからで」
「うん」
「……特に話題を探そうとしなかったのは、ユズちゃんが来てくれたことがただ単に嬉しくて、それだけで楽しくて。声……聞いてたくて」
「うんっ」
ゆっくりと顔を上げた彼の頬は、ほんの少し恥ずかしそうに染まっていた。



