すべての花へそして君へ②


「……何の本、読んでたの……?」

「強いて言うなら、俺の人生の参考書?」

「……人生の参考書?」


 なんだろう。すごく気になるけれど、その続きは静かに見つめてくる彼の瞳に遮られてしまう。


「ユズちゃん」

「……はい」


 怒られてしまうのだろうか。


「どうして……なんて聞かないよ。避けられてた理由、何となく予想ついてるから」


 そう身構えたあたしの手を、彼はそっと取った。


「だから。今日はさ、会いに来てくれてありがとう。すごい嬉しかった」


 また、触れてくれた。


「……め、な……さっ」

「……ユズちゃん?」

「ごめ、なさ……っ……」

「……寧ろ、謝るのは俺の方じゃないかと思うんだけど……」

「そんなことない……!!」

「わ! ははっ。そっか。……ありがとう、ユズちゃん」


 ガバッと起き上がったあたしにびっくりしながら、それでも彼はただ笑ってくれた。


「教えてくれる? どうして今日、会いに来てくれたのか」


 そっと、目元の涙をぬぐってくれた。


 ――――――…………
 ――――……


「……いろんなものを、ぐらぐら。天秤にかけてたの」


 それから涙が落ち着いて、彼に全部打ち明けることにした。
 自分の夢も、ズルさも、性格の悪さも。かなくんから来ていた連絡を、今までどんな思いで絶っていたのかも。


「保育士になりたいんだ。すごいね。ユズちゃんにぴったりだと思う」

「だから、かなくんへの想いは、初めから期間限定のものだったの」

「……初めって、いつからそんなこと思ってた? 俺の、彼女だったときから?」

「思い始めたのはつい最近。自分が本当にしたいこと、考えたとき。……もう一回、頑張ろうと思ったとき」

「…………」

「今日来たのは、頑張るのをやめるって。それを言いに来た。もう……怖いから」


 さっきまでは、会話がなくても平気だったのに。いざとなると、彼の沈黙がすごく怖かった。

 ぎゅっとそれを耐えるように。両手を握って続きを話そうとすると、彼はそんなあたしの手を上からそっと触れ、ゆっくりと動いた。


(……えっ……)

「最後まで紳士でいようと思ったけど……ごめん、無理だった」


 はあと大きくため息をついて、少し荒れた様子で彼は再び椅子に座る。
 掴まれた頭が、耳が。触れた唇が、……熱い。