「……何の本、読んでたの……?」
「強いて言うなら、俺の人生の参考書?」
「……人生の参考書?」
なんだろう。すごく気になるけれど、その続きは静かに見つめてくる彼の瞳に遮られてしまう。
「ユズちゃん」
「……はい」
怒られてしまうのだろうか。
「どうして……なんて聞かないよ。避けられてた理由、何となく予想ついてるから」
そう身構えたあたしの手を、彼はそっと取った。
「だから。今日はさ、会いに来てくれてありがとう。すごい嬉しかった」
また、触れてくれた。
「……め、な……さっ」
「……ユズちゃん?」
「ごめ、なさ……っ……」
「……寧ろ、謝るのは俺の方じゃないかと思うんだけど……」
「そんなことない……!!」
「わ! ははっ。そっか。……ありがとう、ユズちゃん」
ガバッと起き上がったあたしにびっくりしながら、それでも彼はただ笑ってくれた。
「教えてくれる? どうして今日、会いに来てくれたのか」
そっと、目元の涙をぬぐってくれた。
――――――…………
――――……
「……いろんなものを、ぐらぐら。天秤にかけてたの」
それから涙が落ち着いて、彼に全部打ち明けることにした。
自分の夢も、ズルさも、性格の悪さも。かなくんから来ていた連絡を、今までどんな思いで絶っていたのかも。
「保育士になりたいんだ。すごいね。ユズちゃんにぴったりだと思う」
「だから、かなくんへの想いは、初めから期間限定のものだったの」
「……初めって、いつからそんなこと思ってた? 俺の、彼女だったときから?」
「思い始めたのはつい最近。自分が本当にしたいこと、考えたとき。……もう一回、頑張ろうと思ったとき」
「…………」
「今日来たのは、頑張るのをやめるって。それを言いに来た。もう……怖いから」
さっきまでは、会話がなくても平気だったのに。いざとなると、彼の沈黙がすごく怖かった。
ぎゅっとそれを耐えるように。両手を握って続きを話そうとすると、彼はそんなあたしの手を上からそっと触れ、ゆっくりと動いた。
(……えっ……)
「最後まで紳士でいようと思ったけど……ごめん、無理だった」
はあと大きくため息をついて、少し荒れた様子で彼は再び椅子に座る。
掴まれた頭が、耳が。触れた唇が、……熱い。



