……見えない。


「上がろう。……モミジ、見つかった?」


 浮き輪にしがみつきながら、船の方へと二人で近づいていく。


「……えっと。 ……うん。モミジさん。見つけた、よ」

「ほんとに? ……じゃあ、ここが」

「……うん。わたしが、舟から落っこちた場所。自分の体を依り代にしてたモミジさんが、眠る場所」


 船の脇に付いているハシゴを、カンカンカンと音を立てながら登る。

 ……まだ、見えない。


「……そっか。よかった。やっと見つけてあげられたね」

「……うん。……えっと、ひなた……くん」

「ん?」


 甲板に上がって、やっとこちらを向いてくれた彼の表情は、声と一緒。普段通り。


「あ。……ううん。何でも、ない」


「そう?」と返す彼の顔は、やっぱりいつもと一緒。

 ……でも、見えなかった。わからなかった。
 いつも通りに隠されたであろう“心”も。どうしてキスが“しょっぱかった”のかも。