なーんて思ってたけど、さすがのわたしもこんなたくさんの人がいる前でキスとか、恥ずかしくてできないので。ギリッギリのところで寸止めをする予定でした。
「……んんっ!?」
だから、なんで今、キスされているのか。正直なところ頭が追いつきません。
確かに目は瞑ったけど……目測誤った? いや、でもそんなことは。だったとしても、触れたら触れたですぐ離れますって。変態にも羞恥心は備わってるんです一応。
原因は恐らく、わたしの後頭部に回っている手だと思う。いや、絶対。
「んっ。……ちょ、ひなた、くん……?」
割れんばかりの黄色の悲鳴には、自分の耳に届く前に蓋をして。眠っているはずの彼に声をかけると、彼はすっと目蓋を上げた。ちょっと、いつから起きてたの。いつから。
「あおい。はよー……」
ああ。今し方、ですかね。様子を見る限り。
目なんかこすっちゃってるし。寝起きの顔ほんと天使っ。
「あー……。お、おはようございますヒナタくん。一応……」
「……ていうか何。うっさ。ここどこ」
「えーっとですね。非常に申し上げにくいんですが……」
状況を上手く説明する自信も度胸もないので、なぜか上着のポケットに入っていた手鏡を、彼の前に持って行ってあげた。
「……へえー……」
会場が凍て付いた▼
な、何とか状況を把握して……しまったらしい。
取り敢えず何か言おうと、美しくなってしまった彼に声をかけるけれど、ぐわっと顔を大きな手に掴まれストップがかけられた。
「んぐっ!? ……あ、あの。ひな」
「ちょっと、数秒待って」
「え? ま、待つ……?」
「今、弔いの準備中」
「――!? なんの!?」
「もちろんオレにこんなことしやがった奴らもあとでちゃんと弔うから安心して」
「あ、あんしんできない……」
「今は、……この大勢の前でしでかしてしまった失態への恥ずかしさを弔ってるからちょっと待ってって言った」
……え?
「……ヒナタくん、いつから起きて」
「あんたも王子モード、今の間に切り替えて。劇立て直さないといけないんだから」
指の隙間から見えた彼も、俯きながら自分の顔を同じように掴んでいた。長い黒髪の下から見える耳は、やっぱり赤くなっている。
「……ふふっ。はーいお姫様」
「……なんかやなんだけど」
「そろそろ二人の世界から帰ってきてくれませんかね」
「「!?!?」」
慌てて振り向いたら、最前列でじと目のレンくんがこちらをじっと見ていた。なんか、いろいろすみません。
「いや、つうかそもそもレンがあんなこと」
「あんなこと?」
「あ。……いや、それは……」
「??」
「観客の皆様大変申し訳ございません。サプライズで代役のお姫様を投入したので若干主役の二人が混乱しておりますが、これより再開致しますので、最後まで楽しんでご覧ください」



