けど、わたしが驚いているのはそんなことではない。
「……見た?」
「つーん」
「えっ。……み、見たの? というか見たんだよね……?」
「何のことか知らないしー。あーちゃんなんかもう知らなーい」
黒衣二人にコンタクトを送っても素っ気なく返されるだけ。
……いや、絶対見てるんでしょ? だって、運ばれてきた人ものすんごい美しいお姫様に変身しちゃってるし。……服の下、見たんでしょ? じゃないとその選択肢絶対作らないでしょ!? 特に二個目ーッ!!
「ちょ、……ちょっとレンくん! たんま!!」
「劇中にたんまはありません、あおいさん」
「いつの間にヒナタくんと入れ替わったのかとか、どうやって黙らせたのかとか眠らせたのかとか、……こんなに美人にしてくれてなんかありがとうとか。ちょっといろいろ聞きたいことが盛りだくさんなんだけど」
「――そして王子は、そっと眠る彼女に近づき唇を寄せました」
「わあーん! レンくんが冷たいー!」
というか、生徒会男性陣の目が。突き刺さるように痛い。
見たんだね。もう、みんな見たってことだよね、この反応はっ。
(ああ、今ほどカナデくんに助けを求めることはないかもしれない……)
そんなことを考えながらも、朗読者側の指示は絶対。
逆らえないわたしは意を決し、キャーッと上がる桃色の悲鳴を浴びながら、愛しい彼の眠るベッドへ、歩みを進めた。
……近付いてみたものの、はてさてどうしたものか。あどけない表情で眠るお姫様は、きっとどちらを選んだとしてもあとでお怒りになることは間違いないだろうし。
けれど、そうとわかっていてもこの状態。……生殺しとか、据え膳食わぬは……とか思ってしまうのは、彼があまりにも美しいせいなのだろうか。というかそうと思っておきたいところだけど。
(……ものすごい静かで耳が痛いです……)
まるで、この世界にいるのがわたしたち二人だけのようだ。
……嘘です。固唾をのんで見守る観客の視線も、非常に痛いです。
「……ねえ、ヒナタくん。ほんとに寝ちゃってるの……?」
綺麗に化粧の乗った肌をそっと撫でてみる。
艶っぽくグロスの塗られた唇に、本当は今すぐにでも噛み付いてしまいたい。
知ってる? ヒナタくん。こんなこと思ってるくらいにはわたし、変態の異常さが増したんだよ? 知らないでしょ。
……知らないよ、どうなっても。あとで怒ったって、わたしのせいじゃないって言い張るよ? 今回ばっかりはヒナタくんが綺麗だったからの一点張りだよ?
「ほんとにちゅー、しちゃうぞ。ばかちん」
すーっと首筋を撫でて、起きなかったらここにたくさん、わたしにしたみたいにつけてやるぞと。後々のお叱りにも覚悟を決めて。
『……目を覚ましてくれ。僕の……僕だけの、愛しい姫』
わたしはゆっくりと、眠る彼との距離をなくした。



