そうして、黒衣さんが手にしているものに、選択の説明はなかった。
【剣】【毛布】
その二つを持って跪く彼らに、わたしはわからない程度に微笑んだ。
『あなたが悪役の道を選ばれるのであれば、……僕も迷わず、ともに堕ちて行きましょう』
飛び交ってくる氷の刃を避け
少年は女王へそっと
温かいブランケットを掛けてあげます
その、少年の俊敏さにか
それとも愚かさにか
女王は目を瞠りました
けれど、忽ち彼と距離をとろうとします
『一人にはもう――……させませんよ』
しかし、それを阻止するように少年は
彼女の冷たい体を包み込むように抱きしめました
もちろん、女王は彼の腕の中でもがきます
けれど、どれだけ暴れても
彼の拘束が解けることはありませんでした
女王は、力なく項垂れてしまいます
『ここに来る途中、男の子と女の子と擦れ違いました。彼らはこう言いました。【お城に近付いてはいけないよ。怖い雪の女王が帰ってくるよ】と』
そして少年は
彼らから聞いた話を女王にしました
今までどんなことがあったのか
どうしてここまでやってきたのか
けれど、少年はその話を聞いて
雪の女王と怖がられる理由がわからなかったのです
だから、ここまで来たのだと
だから、あなたを救いに来たのだと
彼はそう言って、もう一度
彼女の体を抱きしめました
『少年を、何とかしてあげようと、そう思ったのでしょう? だから、苦手な暖かい国まで、足を運んでいたのでしょう? あなたはどうやら、とことん不器用な方らしい』
すると、忽ち女王の体やお城から
凍えるような冷たさが引いていきました
彼女は、このお城のお姫様でした
呪いで雪の女王と呼ばれてしまうようになったようです
『もしまた悲しいことがあったなら、つらいことがあったなら、僕の名前を呼んで。いつでも君のところへ、僕は飛んでくると約束するよ』
こうして、雪の女王は
元の姿に戻ることができました
喜びからか、それとも
小さくなっていく彼の背中に寂しさを感じたからか
たった一粒落ちた彼女の涙は
春を告げる小さな花となったそうです
――最終演目の発表まで、残り1分。
無事に、雪の女王編は卒倒者なく終わり、ようやく素直に上手側へ戻ってこられたわたしは、先程から疑問に思っていることを聞こうと、キサちゃんの姿を捜していた。
「……あれ? おーい、キサちゃん?」
しかし、もう出番はないからか彼女の姿は見当たらない。
もしかしたら男子の方を手伝っているのだろうか。彼女ならやりかねないが……。
「……うーん。わたしが間違っていなければ多分……」
腕を組んで悩んでいると、最後の演目が発表された。最後は確か、順番的にアキラくんだったはずなんだけど。
その、“聞き慣れない声”に違和感を感じつつ、最後の衣装チェンジをすることにした。
……このときはまだ、思ってもみなかった。まさか、あんなことをするハメになるなんて。
――――最終演目【眠り姫】、開幕。



