すべての花へそして君へ②


『僕のおやゆび姫は、ほんと恥ずかしがり屋だな』


 するりと肩から下ろし、腕に座らせるようにしながら抱え上げた。


「……ちょっ!? ちょっと待てって……!」

『先程は泣いていたようだけれど、何があったんだい。この小さな口で教えてはくれないだろうか』

「ちっ、ちか……っ」

『……そうか。やっぱり君は恥ずかしがり屋なんだね。大丈夫。言葉にしなくてもわかるよ。僕には、君の心の声が聞こえるから』

「……!? ふぶっ」

『僕に、会いたかったのだろう……? 僕も、小さな君にもう一度、会いたかった。会って、こうして触れ合いたかったよ』


 今までじゃ考えられないくらい近い距離に、チカくんは手で口と鼻を押さえ、なぜか知らないけど必死になって息を止めていた。
 そんな様子もなんだか可愛らしくて悪戯したくなった。


『……やっぱり、君の声で教えてくれないか。僕に会いたかったと。言って、僕に愛の言葉を囁いてくれないか』


 彼は、何かを懇願するように潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
 けれどそれにはそっと笑みで返して、彼の頬に手を伸ばし、催促するように頬をすーっと撫でる。
 彼は、小さく震えた。


「……っ、あい。たかったっ」

『よくできました。僕の可愛いお姫様』


 ――――――…………
 ――――……


「おい、これ以上卒倒者増やすな。お前も、劇続けたかったらそんな顔すんなよ。わかったか?」

「すげえ屈辱……」

「大丈夫大丈夫。ビックリするぐらい可愛かったから。マジでお姫さんかと思ったくらいだ。月雪とともに自信持てよ。な?」

「持てるかあー!!」


 再び、へにゃへにゃになったお姫様を男子更衣室まで連れてくると、ニヤニヤしたキク先生がいらっしゃった。
 ……どうやら、卒倒者はチカくんファンらしい。そう、例の子たち。


「まあ、恒例みたいになってるからこのまま劇は続行していいぞ。頑張れよ、王子さん」

「お任せください!」


 そうしてキク先生を見送り、自分も舞台裏を通って女子更衣室へ戻ろうとしたら、次のシャッフルタイトルが発表された。


(……あれ?)

「葵」

「ん? なーに?」


 声をかけてきたツバサくんは、そんな気がしていたのか、次のタイトルの衣装をすでに身に纏っていた。……うん。わたしも、そんな気がしてたよ。


「……劇、楽しんでるか?」

「え? ……ふふっ。もっちろん! 楽しんでもらうためには、自分たちが楽しまないとだもん!」


 彼は「だな」と、小さく笑顔をこぼし、ぽんと頭に手を置いて、耳元に唇を寄せてくる。
 元気そうで安心した、……と。


「ありがと、ツバサくん。またもし何かあったときは、お代。負けてね?」

「ないようにしろっつったろ。……ま、そのときはいつでも呼べよ」


 そんな軽口に、二人して笑い合う。

 ――――第四幕【雪の女王】、開幕。