『僕のおやゆび姫は、ほんと恥ずかしがり屋だな』
するりと肩から下ろし、腕に座らせるようにしながら抱え上げた。
「……ちょっ!? ちょっと待てって……!」
『先程は泣いていたようだけれど、何があったんだい。この小さな口で教えてはくれないだろうか』
「ちっ、ちか……っ」
『……そうか。やっぱり君は恥ずかしがり屋なんだね。大丈夫。言葉にしなくてもわかるよ。僕には、君の心の声が聞こえるから』
「……!? ふぶっ」
『僕に、会いたかったのだろう……? 僕も、小さな君にもう一度、会いたかった。会って、こうして触れ合いたかったよ』
今までじゃ考えられないくらい近い距離に、チカくんは手で口と鼻を押さえ、なぜか知らないけど必死になって息を止めていた。
そんな様子もなんだか可愛らしくて悪戯したくなった。
『……やっぱり、君の声で教えてくれないか。僕に会いたかったと。言って、僕に愛の言葉を囁いてくれないか』
彼は、何かを懇願するように潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
けれどそれにはそっと笑みで返して、彼の頬に手を伸ばし、催促するように頬をすーっと撫でる。
彼は、小さく震えた。
「……っ、あい。たかったっ」
『よくできました。僕の可愛いお姫様』
――――――…………
――――……
「おい、これ以上卒倒者増やすな。お前も、劇続けたかったらそんな顔すんなよ。わかったか?」
「すげえ屈辱……」
「大丈夫大丈夫。ビックリするぐらい可愛かったから。マジでお姫さんかと思ったくらいだ。月雪とともに自信持てよ。な?」
「持てるかあー!!」
再び、へにゃへにゃになったお姫様を男子更衣室まで連れてくると、ニヤニヤしたキク先生がいらっしゃった。
……どうやら、卒倒者はチカくんファンらしい。そう、例の子たち。
「まあ、恒例みたいになってるからこのまま劇は続行していいぞ。頑張れよ、王子さん」
「お任せください!」
そうしてキク先生を見送り、自分も舞台裏を通って女子更衣室へ戻ろうとしたら、次のシャッフルタイトルが発表された。
(……あれ?)
「葵」
「ん? なーに?」
声をかけてきたツバサくんは、そんな気がしていたのか、次のタイトルの衣装をすでに身に纏っていた。……うん。わたしも、そんな気がしてたよ。
「……劇、楽しんでるか?」
「え? ……ふふっ。もっちろん! 楽しんでもらうためには、自分たちが楽しまないとだもん!」
彼は「だな」と、小さく笑顔をこぼし、ぽんと頭に手を置いて、耳元に唇を寄せてくる。
元気そうで安心した、……と。
「ありがと、ツバサくん。またもし何かあったときは、お代。負けてね?」
「ないようにしろっつったろ。……ま、そのときはいつでも呼べよ」
そんな軽口に、二人して笑い合う。
――――第四幕【雪の女王】、開幕。



