おばあさんが立ち去ってしばらくすると
なぜか毒リンゴを食べたはずの白雪姫が
むっくりと体を起こしました
そして彼女は
口から齧ったリンゴを吐き出します
『……あなたが無事で、本当によかった』
どうやら王子は
あのおばあさんの言動やリンゴの様子から
白雪姫の持っているリンゴが怪しいと
踏んでいたようでした
『なんとお礼を言ったらいいか……』
「『毒が入っているから、決して飲み込まないように』……そう耳打ちされた方の真っ赤な耳を押さえながら、月雪姫は王子に何かお礼をさせてくれとせがみます。あーそれはもう真っ赤な顔で」
「……おい九条」
「はい月雪姫は黙ってー」
そんな二人のやりとりに、クスッと会場に笑いの空気がこぼれる。
その余韻をしばらく残して、『お礼、か』と、わたしは小さく呟いた。
『お礼をいただけるようなことなどしていないよ。……まあ、いただけるのであれば僕はいただいてしまう主義だけどね』
そう言って月雪姫の腰を引き寄せ、顎をくいっと持ち上げる。
「えっ。ちょ、あおいさん……!?」
キャーッという悲鳴を背景に、そっと顔を近づける。
『……本当は、目の前の真っ赤なリンゴよりも美味しそうな君を今すぐにでも食べてしまいたいけれど……今回はこれで十分だよ。けれど、また会ったときは、もう遠慮はしないからそのつもりで』
「……そうして転がっていたリンゴを一つもらった王子は、爽やかに去って行きました――」
と、ヒナタくんが締めてくれたところで、二人で舞台から降りようとしたけれど……。
「……れ、レンくん……?」
「す、すみません。本気で動けません……」
「チッ。……けれど、動けなくなってしまった月雪姫を見て、王子は家まで運んでから、彼女の胸にあつい熱をともして去って行ったのでした。……チッ」
い、いや。ヒナタくん舌打ち……。しかも二回。
「いや、ほんと、すみません……」
「あ。い、いえいえ。こちらこそなんかすみません。腰抜かしたみたいで……」
ひとまず、男子更衣室を兼ねている舞台の下手側へと月雪姫を運んだ。
「ここにも犠牲者が……」
「そんな目で見ないでよツバサくん」
まるで人を女誑しみたいに……あ、いや、そういう設定なんだけども。
ツバサくんにレンくんを預けていると、ふと何か違和感を感じた。あれ、悪いお妃様はどこ行った?
「俺の番終わったからっつって、猛ダッシュで飛び出してったよ」
ああ、なるほどね。けどあの人最後のシャッフル担当だったんだけど……まあ、誰か代役を立てるってことで話が落ち着いたんだろう。
その辺は、こっちの人たちに任せておこう。わたしは、王子役に専念しなければ。
「……ていうかあおいさん、なんなんですかその王子……」
「え?」
「月雪が言いたいのはたぶん、キャラじゃねえのに役にしてもなんでそんな慣れてるんだよ、ってところか」
「……失礼な。わたしは女誑しじゃないぞ」
「「(天然誑しなところは若干あるけど……本人は気付いてないんだろうな)」」
なんか二人して見つめ合ってるし。言いたいことがあるならはっきり言ってくれ。
「……慣れてるんじゃなくて、真似てるんだよ」
「「え??」」
「つまりは、お手本があるってこと。わたしはただ、その人になりきっているだけだ」
と、ちょうど次のシャッフルのタイトルが決まったらしい。次の準備に、黒衣さん二人と担当はバタバタと忙しそうだ。
「……そのお手本って……」
「まさかとは思うけど」
「ふふっ。それはご想像にお任せするよ」
――――さあ、第三幕の始まりだ。



