――再び幕が上がるまであと10分。
「おかえり。お客さん大丈夫だった?」
「ひとまず保健室まで運んできた。取り敢えず元気そう」
「そっか。よかったね」
「ついでに『僕のユズ』って言ってってせがまれた」
「……えっ」
「ま、そういうこと」
マントを翻しその人の前を横切ろうとすると、「待って」と少し切羽詰まったような声で呼び止められる。見上げた彼は、見たこともないような怖い顔でこちらを見下ろしていた。
「おいカナ、落ち着け。葵も、あんま弄ってやんな」
「いや、わたしはありのままを普通に言ったつもりなんだけど……」
「まだ王子モード入ってんだって。完璧に今挑発した目付きだったぞ」
「ありゃりゃ、そうだったのか。ごめんごめん。もうすぐ再開するからと思ってさ」
けれど、ひと言言葉を発して以降何も言わない彼は、やはりまだ強張ったままの表情で、こちらを見ていた。
「……大丈夫だよ。ユズちゃん元気そうだった」
「……」
「一生懸命走って観に来てくれたんだって。だからかな、ちょっとだけ顔色がよくなくてね」
「……」
「自分の番が終わったら行けばいいと思うよ。来てくれたってことは、そういうことでしょう?」
ぽんと肩を叩いて、ステージを横切って女子の控えへ戻ろうとした。けれど、通り過ぎる前にその手は強く、彼に取られてしまった。
「……言って、ないよね」
「え?」
「だ、だから。僕の……って」
「……」
怖い顔で何を考えているのかと思えば。なんて可愛くてちっぽけな悩み事なのか。



