すべての花へそして君へ②


 ――再び幕が上がるまであと10分。


「おかえり。お客さん大丈夫だった?」

「ひとまず保健室まで運んできた。取り敢えず元気そう」

「そっか。よかったね」

「ついでに『僕のユズ』って言ってってせがまれた」

「……えっ」

「ま、そういうこと」


 マントを翻しその人の前を横切ろうとすると、「待って」と少し切羽詰まったような声で呼び止められる。見上げた彼は、見たこともないような怖い顔でこちらを見下ろしていた。


「おいカナ、落ち着け。葵も、あんま弄ってやんな」

「いや、わたしはありのままを普通に言ったつもりなんだけど……」

「まだ王子モード入ってんだって。完璧に今挑発した目付きだったぞ」

「ありゃりゃ、そうだったのか。ごめんごめん。もうすぐ再開するからと思ってさ」


 けれど、ひと言言葉を発して以降何も言わない彼は、やはりまだ強張ったままの表情で、こちらを見ていた。


「……大丈夫だよ。ユズちゃん元気そうだった」

「……」

「一生懸命走って観に来てくれたんだって。だからかな、ちょっとだけ顔色がよくなくてね」

「……」

「自分の番が終わったら行けばいいと思うよ。来てくれたってことは、そういうことでしょう?」


 ぽんと肩を叩いて、ステージを横切って女子の控えへ戻ろうとした。けれど、通り過ぎる前にその手は強く、彼に取られてしまった。


「……言って、ないよね」

「え?」

「だ、だから。僕の……って」

「……」


 怖い顔で何を考えているのかと思えば。なんて可愛くてちっぽけな悩み事なのか。