割れんばかりの悲鳴を背中に、そのまま舞台袖へと捌けてきた途端、隣の彼女が膝から崩れ落ちた。
「えっ! き、キサちゃんだいじょうぶ」
彼女の顔を覗き込んだ直後、最後の疑問符は出せなかった。
「……だ、大丈夫じゃなさそうだね」
なぜなら、尋常じゃないほど彼女の顔が真っ赤だったからだ。目元も潤んでいる。
「……こ、腰抜け……」
「またまた大袈裟なー。演技派だねキサちゃん」
「現在進行形で抜けてる」
「……え。本当に……?」
「菊ちゃんに嫌われる……」
「いやいや、それだけは絶対ないから」
ひとまず、動けなくなってしまった彼女を抱え上げ、控えベンチに座らせてあげようとしたところで、舞台の端の扉――つまり女子更衣室の扉が開いた。
「……え。キク先生……?」
あんた、ここ一応控え室だけど更衣室も兼ねてるんですけど。着替え中だったらどうするつもりだったの、この淫行教師。
「……キサ、お前顔赤」
「き、菊ちゃん、これは違うの。あっちゃんにときめいちゃったのも腰抜かされちゃったのも事実だけど、菊ちゃん一筋なのに変わりはないんだよ! 浮気なんてあたし、してな……っ」
「……いやいや、ただの劇だから……」
「まあ、それくらいで済んでるならまだ大丈夫だな」
「「え??」」
あれ。会場がまだざわついてる……?
次のシャッフルが行われているはずなのに、耳を澄ませてみるとどこか違った雰囲気の声が……。
「悪いが、劇は一旦止める。急患が出た」
「た、大変じゃないですか! 早く救急車を」
「だから、最後まで責任持てよ。王子様」
「へ?」
――観客の中の数人が、王子に卒倒した。
「な、なんてこったい……」
「取り敢えず、劇続けんならその色気加減しろよ。また犠牲者増やす」
「えっ。い、色気?」
「んで、ちょっと王子の手が欲しい。保健室まで運んで欲しい奴がいてな」
「わ、わかりました……! 合点承知!」
「キサはその間ちょっと休んどけ。帰ったらお仕置き」
「……! わっ、わかったー!」
「よ、喜ぶんだねキサちゃん……」
もし同じ状況でお仕置きと聞いて、わたしは喜べるかな。……うん。怖いから考えないぞっ。
そして、会場に下りるとまた違った意味でざわつき始めた。もちろん原因はこのわたし……王子である。
「まさか、お前さんにこんな才能まであったとはな」
「いや、普通にど素人ですから」
「そのど素人が頑張った結果がこうだ。まあそれなりに自信持て」
「そんな自信いりませんよ」
そんなことよりも、その倒れてしまった子は一体どこに……。そう問おうとしたところで、思いもよらなかった人が視界に飛び込んできた。
「……ああ、あんたか」
「ヒナタ、くん……?」
「なかなかのいい人選だったろ?」
「この上ない人選でしょ」
そして、彼が抱えていた人物。
「……え!? ユズちゃん!!」
「というわけで王子、責任もって運んでやってくれ」
「帰ってくるまでこの場繋げとくから」
「わっ、……わかった!」
会場から出るのも一苦労だった。ユズちゃんを抱え上げたら抱え上げたで、「キャーッ!!」って悲鳴が上がるわ、倒れたフリをする子が出てくるわ、「私も私も!」っていっぱい抱きついてくるわ……。
『すぐ帰ってくるよ。だから……もうしばらく待っていてくれ。僕の可愛いレディーたち』
って、取り敢えず捨て台詞吐いてきたけど。きっと繋げておいてくれるはず。



