そんなことを訴えたところで彼のシナリオが変わるはずもなく。次のお話へ移るため、一旦舞台袖の女子更衣室まで捌けて衣装チェンジ。入れ替わりに、昨日のもう一人の主役がウインクをしてステージ上へと上がっていった。
――けれど、これはまだ序の口に過ぎなかった。
(……次は、【シンデレラ】か。キサちゃんにぴったりだ)
去年の文化祭を思い出しながら、なんだかんだで楽しい劇に、わたしは心を弾ませていました。
……だから、気が付かなかったのです。
緩んでいた気の隙を狙うように。このときすでに、誰かの背後に、黒い影が忍び寄っていたなんて……。
「『――私も、舞踏会に行きたかった……』二番目の母と、その連れ子の姉たちに美しさを妬まれていたシンデレラは、当然舞踏会に行くことさえ許してもらえませんでした」
それから、アキラくんの朗読に合わせたキサちゃんの独壇場に、わたしも観客と同じように目を奪われていた。
……やっぱり上手。わたしも、王子様頑張らなきゃ。
(アキラくんだからかな。安心して観ていられる……)
ひとまず、シンデレラの回で変にビクビク怯えることはなさそうだ。
そっと胸を撫で下ろすと、ちょうどタイミングよく登場のフリが来る。
「一人になったシンデレラが泣いているとき、一人の男性が彼女に声をかけてきます。『……お、お嬢さん、こんなところでどうして泣いているのですか? せっかくのかわ、……美しい顔が台無しですよ』」
女誑し王子という無理矢理な設定に、犠牲者がここにも。動きは台詞に合わせながら、心の中ではアキラくんへ応援と謝罪をしておいた。
「『実は今夜、お城で舞踏会があるんです』事情を聞いた男性……国を追放された王子は、泣いている彼女を放っておくことはできず、一つの選択をしました――――」
その【選択】というフリに合わせて、向こう側の袖から黒衣さん二人がひょこひょことやってくる。
そして彼らは、持っていたものをひょいっとあげた。
「よいしょっ」
アカネくんが持っていたのは、【シンデレラを舞踏会へ連れて行ってあげる】と、書かれたプラカードと水色のガラスの靴。
「よいしょーっ」
変わってオウリくんが持っていたのは、【シンデレラを慰めてあげる】と、書かれたプラカードとピンク色のガラスの靴。
好調だった初日の劇に加えられたのが、この選択肢。このあと、王子役は自分で考えて台詞を言わなければいけない。
(わたしは王子、わたしは王子、わたしは王子……)
ふうと一つ息を吐いて、わたしはガラスの靴を取った。



