「なーんて、どうでした? 傑作でしょう?」
そんな物語を語ってみれば、電話口からは不機嫌そうな雰囲気が漂ってくる。
そして、落ち着かせるだけの時間を置いてから、用件だけを言って向こうはさっさと電話を切った。
「……あらあら珍しい。荒れてますねー」
何か、心境の変化でもあったんスかね。
ま、そこに立ち入るのは死んでも嫌ッスけどね。面倒なんで。
「えーっと今日は」
夕方まで大学で授業。そのあとゼミの集まりがあって、夜まで喫茶店のバイト。葵ちゃんは……文化祭、ね。
「演劇するんだ。へー、面白そうだね」
ああそういえば、昨日もしたんだってね。大盛況だったみたいじゃない。
「……では今日も、それはそれは盛況なのだろうね」
スマホをしまうと同時、廊下の向こう側から俺の名前を呼ぶ声が響いた。
【実行は――……今夜】
耳に残る言葉を反芻し、眼鏡をかけ直して大学生の顔に戻る。
「はよ。……挨拶早々に悪いんだけど」
「課題だろ? わかってるから来たんだよ」
「助かる。ありがとな」
「礼はいいから早く行くぞ、苦学生。教授の授業が始まる」
それから暫くして、二限目のチャイムが響き渡った。
不意に教室の壁掛け時計を見上げた俺に、隣の彼は不思議そうに訊いてきた。
「どうしたんだ、時計なんかじっと見て」
「ん? 今日は、最高の一日になりそうだなって」
無駄に時間を費やした俺は、今にも噴き出してしまいそうになるのを堪えながら、それを隠すように大袈裟に筆箱を開けてみせた。
……きっと今頃、演劇の幕が上がっているのだろう。



