自分の名前を取り戻したお花は
大好きなお日さまと
ずっと一緒にいることを約束しました
しかし、花は気が付いていたのだ
大好きな太陽を隠すように
大きな雲が出てしまったことを
それが濃く厚くなっていることを
翳りが……増えていることを
そして花は
わかっていたのです
運命は
名前を呼ばれたくらいでは
そう易々と変わらないことを
はじめから自分の運命が
呪われていることを
それでも花は
翳る太陽に笑いかけました
見上げ、そして、誓います
『貴方の光は、私が必ず取り戻します』
――と。
そして過去、多くを摘み取り根刮ぎ枯らした花に
真っ白な絹を纏った人間たちが現れこう言った
“小さな一輪挿しの花瓶に生けられるがいいか
それとも
自らの水を蜜を与え続けなければならぬ
荒野に放たれるがいいか
其方に、永久の権限を与えん”
……と。
闇夜の月影さえ届かぬほど
暗く深いどぶの前で
その花は俯き佇んでいた
白絹の人間たちは
花が泣いているのかと思った
けれど花は
それを嘆くことはなかった
寧ろどぶの前で
こう言ってのけたのだ
『私は決して、清廉潔白な花ではありません
綺麗で美しくもありません
それでもこうして咲かせられたのは
こんな花でも
咲くことを待ち望んでくれたから
……見守っていて、くれたから
だからたとえ
薄汚れ、臭い、暗く寒くとも
そこに紅い花片が落ちてしまったと言うならば
それを拾いに行くのは
私のほかに、いないでしょう』
――……と。
勝ち気に、そして誇り顔で
その花は喜んで溝に
飛び込んでいったのでした
めでたしめでたし。



