熱海。京都。ここ。他数十カ所。
大学生。今の彼よりは年上。苦学生。
……これ以上増やしたら不味いな。ただでさえ、同一人物か? と疑いたくなるくらいキャラブレてるし。
(他の仕事もあるし。【顔】作るのはこれが限界か)
ダーレカサンと違って、俺は面倒いことは“さっさと忘れる”薄情者、なんでね。
――さあ。カウントダウンが始まった。
選択の刻は……もう。すぐそこだ。
ひとまず、彼はこれで大丈夫だろう。彼女の方も……様子を見る限り心配なさそうだ。
彼らがこれ以上【こちら側】へ踏み込んでくることは、もうきっとない。
「……っと。はいは~い。なんッスか~?」
彼と別れ、タイミングよく鳴った着信の相手は、今大半の勤務時間を割いている勤め先……の、直属の上司。
「話し方ー? だーって、これが一番ラクなんッス。仕事中の大半はこうなんですよー。初めてお会いしたときよりもだいぶキャラ違いますけどーまあ気にしないでくだサイ」
すると次の瞬間、次の仕事内容が口頭でババババーッと勢いよく伝えられる。
いやいや、ちょっと待ってくだサイよー。俺、ダーレカサンと違って記憶力にそこまで脳味噌割いてないのでー。
もうちょっと、もうちょっとゆっくり……!
あなたもお忙しいのは重々知ってますけど、ノートパソコンが立ち上がるまでの時間くらい、待ってくれても――――
「わかってますわかってます。ちゃんと脳内PCに書き込んでますよー」
決して、外部に漏れてはならない。
残ってしまうようなものは残せない。残しては……ならない。今からの仕事は、そういう仕事だ。
「……はい。りょーかいッス~。大丈夫ッスよー。俺が今までヘマしたことあります? ないでしょー」
この目で、ちゃんと見届けてあげよう。
「んじゃ、失礼しますねー」
スマホを切り、手持ちの双眼鏡でとある場所を眺める。
覗いた先には、お互いの手をそっと取り、仲睦まじく歩いている買い物帰りのカップル。……あらあら。楽しそうなことで。
「……ま、微笑ましくていいんじゃない? 俺にはそういう感覚よくわかんないけど」
せいぜい、今の間に楽しんでおくといいよ。きっともう、こんな幸せな時間は来ないだろうからね。
君の幸せだった時間は、俺が――……奪ってあげる。
「さーてさてさて葵ちゃん? 愛しい彼とのラブラブタイムがついにカウントダウンだよー」
君は一体、どんな愚かな結論を導き出すのだろうか。
君に、大好きな彼を捨てる覚悟があるかな。



