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「それじゃあ、お先に失礼しまーす」
「あ。ちょっとだけ待ってもらっても大丈夫ですか」
「え? うん。大丈夫だよー」
挽き立てのコーヒー豆の香りを纏いながら、バイトの時間を終え上がろうとした俺を呼び止めた眼鏡の彼は、何やら奥の事務所の方へ駆けていった。……何か、あったかな。
「お待たせしてすみません。この間実家に帰ったのでそのお土産です」
「え! そんな、いいのに。却って気を遣わせてごめんね」
「いえ。俺の方こそ大学が忙しくて。なかなかお渡しできなくて」
「ありがとう。……なんだか高級そう?」
「いえいえ、全然そんなことないんで。ほんと、あんま期待しないでください」
「いやいや、いただけるだけで嬉しいから。俺なんて、土産のミの字も出てこない薄情者だし」
「薄情だなんて。そんなこと、一緒に仕事して思ったことないですよ。バイト代で学費とか生活費とか切り盛りして、ほんとすごいです」
「いや、すごくないから。ただの貧乏人なだけだから」
ふと時計を見ると、結構いい時間になっていた。……急がないと、次のバイトに遅れてしまう。
「……もしかして、これからまだ違うバイトですか?」
「そうなんですー。ほんと、死ぬ寸前まで扱き使われて……」
「え。む、無理しないでくださいね? 倒れたら元も子もないですから」
「もー。俺の上司に言ってやって欲しいよー……」
――――あっまいなあ。どいつもこいつもさあ。
【初めまして。新しくバイトに入りました――】
【すみません、入って早々失礼なこと聞くんですけど】
【……はい??】
「……そういえば、桐生くんのご実家って徳島だったっけ」
「はいそうですよ。……あれ? 俺言いましたっけ」
「あれ。何で知ってるんだっけ? もしかしたらマスターと話をしたときにそういう話題になったのかも」
「……え。そもそもなんでそんな話に……」
【あなた、夏に熱海と京都でバイトしてませんでした?】
【えっ!? な、何で知ってるんですか!? ビックリ】
【単刀直入に聞きます。……あんた――――】
「――……と、そんな経緯で」
「マスター……」
「ああ、マスターを責めないでね。元はといえば、興味津々で訊いた俺が悪いんだから」
「いや、別にいいんです。……いいんです」
「わああ、桐生くん。気を確かに……」
【……あんた、一体何者】
――――ほんと、詰めが甘過ぎるねえ。
【そ、そんな事情があったとは知らず。開口一番にほんと失礼しました】
【全然大丈夫です。気にしないでください】
【……じゃあ、ここのバイトも?】
【はい。通ってる大学から近いので、思い切って】
【い、いろいろやり過ぎて体壊さないでくださいね】
【ご心配痛み入りますー】
「はああ……見たかったなぁ。かっこいい桐生くんが、初恋で元婚約者の女の子を助けてあげるシーン」
「そんなふわふわしたピンクい感じじゃないですから。ほら、早く行かないと次のバイトに遅れますよ」
「ハッ。そうだった! それじゃあお疲れ様! またシフト一緒だったらよろしくね」
「はい。こちらこそお願いします。お疲れ様でした」
「それじゃあ、お先に失礼しまーす」
「あ。ちょっとだけ待ってもらっても大丈夫ですか」
「え? うん。大丈夫だよー」
挽き立てのコーヒー豆の香りを纏いながら、バイトの時間を終え上がろうとした俺を呼び止めた眼鏡の彼は、何やら奥の事務所の方へ駆けていった。……何か、あったかな。
「お待たせしてすみません。この間実家に帰ったのでそのお土産です」
「え! そんな、いいのに。却って気を遣わせてごめんね」
「いえ。俺の方こそ大学が忙しくて。なかなかお渡しできなくて」
「ありがとう。……なんだか高級そう?」
「いえいえ、全然そんなことないんで。ほんと、あんま期待しないでください」
「いやいや、いただけるだけで嬉しいから。俺なんて、土産のミの字も出てこない薄情者だし」
「薄情だなんて。そんなこと、一緒に仕事して思ったことないですよ。バイト代で学費とか生活費とか切り盛りして、ほんとすごいです」
「いや、すごくないから。ただの貧乏人なだけだから」
ふと時計を見ると、結構いい時間になっていた。……急がないと、次のバイトに遅れてしまう。
「……もしかして、これからまだ違うバイトですか?」
「そうなんですー。ほんと、死ぬ寸前まで扱き使われて……」
「え。む、無理しないでくださいね? 倒れたら元も子もないですから」
「もー。俺の上司に言ってやって欲しいよー……」
――――あっまいなあ。どいつもこいつもさあ。
【初めまして。新しくバイトに入りました――】
【すみません、入って早々失礼なこと聞くんですけど】
【……はい??】
「……そういえば、桐生くんのご実家って徳島だったっけ」
「はいそうですよ。……あれ? 俺言いましたっけ」
「あれ。何で知ってるんだっけ? もしかしたらマスターと話をしたときにそういう話題になったのかも」
「……え。そもそもなんでそんな話に……」
【あなた、夏に熱海と京都でバイトしてませんでした?】
【えっ!? な、何で知ってるんですか!? ビックリ】
【単刀直入に聞きます。……あんた――――】
「――……と、そんな経緯で」
「マスター……」
「ああ、マスターを責めないでね。元はといえば、興味津々で訊いた俺が悪いんだから」
「いや、別にいいんです。……いいんです」
「わああ、桐生くん。気を確かに……」
【……あんた、一体何者】
――――ほんと、詰めが甘過ぎるねえ。
【そ、そんな事情があったとは知らず。開口一番にほんと失礼しました】
【全然大丈夫です。気にしないでください】
【……じゃあ、ここのバイトも?】
【はい。通ってる大学から近いので、思い切って】
【い、いろいろやり過ぎて体壊さないでくださいね】
【ご心配痛み入りますー】
「はああ……見たかったなぁ。かっこいい桐生くんが、初恋で元婚約者の女の子を助けてあげるシーン」
「そんなふわふわしたピンクい感じじゃないですから。ほら、早く行かないと次のバイトに遅れますよ」
「ハッ。そうだった! それじゃあお疲れ様! またシフト一緒だったらよろしくね」
「はい。こちらこそお願いします。お疲れ様でした」



