「よし! それじゃあサラさん、お待たせしました! 行きましょうっ!」
男性陣を船の一室に残し、サラさんの背中を押して部屋を出ようとすると。
「ええーっと、あの恋人同士の今生の別れみたいな挨拶は終わったの?」
とか彼女が聞いてくるから。一度止まって、いい子で待っている彼の方へ、ほんの少しだけ首を傾けた。
「お別れの言葉なんて、一生言うつもりはありませんよっ」
満面の笑顔と言葉を残し、わたしは“彼女”の捜索に向かったのだった。
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「……だってー。ヨカッタネー」
残された面々は「よかったな」と。皇さん、カオル、レンの順番で九条くんの肩をポンポンポンと軽く叩き、彼らも続いて部屋を出て行った。残ったのは、あおいさんの彼氏くんと“あおいちゃん”になった俺。
「遠回しにまた振られたんですけどー」
「え。まだ狙ってるの? やめときなよ、勝ち目なんかないって」
「すごい自信満々に言うんだねー」
「オレだってあいつに勝てる自信はないよ」
「……うん。そうだね……」
それに大きく頷いた拍子に見えたのは、律儀にまだ自分のライフジャケットを掴んでいる、彼の手。
「……帰ってくるって」
「……うん」
「お別れの言葉、言わないって」
「……ん」
「まだ、言ってないんだね」
「……」
「いつ言うの。このまま言わないでおくの?」
「それはしない」
「絶対?」
「……」
返ってこない返事に、俺は大きくため息を落とす。
「そうやってさ、一人で抱え込んで。苦しむの?」
「一人じゃないじゃん。アイがいる」
「え。嫌だよ。苦しむなんて。しかも九条くんと一緒なんて」
「酷いね」
あおいちゃん印の麦わら帽をそっと取り、彼に押しつける。それでも、いつものように憎たらしく返ってこない反応に文句に、半ば呆れながらため息を落としながら、彼の手を振り払った。
「……っ」
だらりと垂れ、彼女がいなくなってからずっと震えている手に。
「……九条くん」
……俺はまた、大きくため息を落とした。



