すべての花へそして君へ②


「よし! それじゃあサラさん、お待たせしました! 行きましょうっ!」


 男性陣を船の一室に残し、サラさんの背中を押して部屋を出ようとすると。


「ええーっと、あの恋人同士の今生の別れみたいな挨拶は終わったの?」


 とか彼女が聞いてくるから。一度止まって、いい子で待っている彼の方へ、ほんの少しだけ首を傾けた。


「お別れの言葉なんて、一生言うつもりはありませんよっ」


 満面の笑顔と言葉を残し、わたしは“彼女”の捜索に向かったのだった。


 ✿


「……だってー。ヨカッタネー」


 残された面々は「よかったな」と。皇さん、カオル、レンの順番で九条くんの肩をポンポンポンと軽く叩き、彼らも続いて部屋を出て行った。残ったのは、あおいさんの彼氏くんと“あおいちゃん”になった俺。


「遠回しにまた振られたんですけどー」

「え。まだ狙ってるの? やめときなよ、勝ち目なんかないって」

「すごい自信満々に言うんだねー」

「オレだってあいつに勝てる自信はないよ」

「……うん。そうだね……」


 それに大きく頷いた拍子に見えたのは、律儀にまだ自分のライフジャケットを掴んでいる、彼の手。


「……帰ってくるって」

「……うん」

「お別れの言葉、言わないって」

「……ん」

まだ(、、)言ってない(、、、、、)んだね」

「……」

「いつ言うの。このまま言わないでおくの?」

「それはしない」

「絶対?」

「……」


 返ってこない返事に、俺は大きくため息を落とす。


「そうやってさ、一人で抱え込んで。苦しむの?」

「一人じゃないじゃん。アイがいる」

「え。嫌だよ。苦しむなんて。しかも九条くんと一緒なんて」

「酷いね」


 あおいちゃん印の麦わら帽をそっと取り、彼に押しつける。それでも、いつものように憎たらしく返ってこない反応に文句に、半ば呆れながらため息を落としながら、彼の手を振り払った。


「……っ」


 だらりと垂れ、彼女がいなくなってからずっと震えている手に。


「……九条くん」


 ……俺はまた、大きくため息を落とした。