なんとか。……そこまでが限界だった。必死に紡いだ言葉とは違うものが出てくる前に、懸命に自分の口を塞いだ。
こんな、嫉妬であふれた言葉を、言いに来たわけじゃないのに。もっと違うことが……言えなかったことが言いたくて、一生懸命勇気を溜めたのに。背中、押してもらったのに。
こんな、惨めな姿を見て欲しくはないのに。
「……バカだね、ほんと」
それでも彼は、愛おしそうにそうこぼして強く、わたしの体を抱きしめた。
「やだっ。はなして……!」
「ああ、それは健在なのね……」
そして「はいはい」と、ただ彼は嫌がるわたしの背中をぽんぽんとさする。
「……はなして」
「逃げないって約束してくれたら離してあげてもいいよ?」
「……はな、して」
「……はいはい」
すっと離れていく体温に、どうしても寂しさを覚えてしまう。けれど、やっぱり逃げたい思いは拭いきれず、そのままわたしは数歩後退った。
「約束。破るんだ」
でも、それもすぐに背後の扉と、そこを押さえつけるヒナタくんによって捕まった。
本当に逃げ場をなくしたわたしの体は、ズルズルと壁伝いに崩れ落ちる。
「……ちょっとは落ち着いた? オレの話、聞けそう?」
そんなわたしの前に同じように座り込んだ彼は、ふっとやさしい顔を浮かべながら覗き込むように首を傾けている。
そっと小さく、頷いた。
「……で。いつどこで誰が誰と抱き合ったって」
けど、次の瞬間彼の頭には悪魔の角が生えているように見えた。
「……い、いま。さっき」
「ん」
「こ、ここで……」
「ん」
「……さっき出て行った子と。ヒナタくんが」
「バカ」
「ばっ!?」
「あんたって頭いい?」
「え……?」
「記憶力、いいよね確か」
「……う、うん……?」
「だったらさっきのこと思い出して。ちゃんと。正確に。寸分違わず」
「……い」
「嫌とは言わせない」
「うぐ……」
有無を言わせぬ物言いで、彼は言葉でもわたしの逃げ場を奪っていった。
本音を言えば、思い出したくもないけれど。でも、このままでいるのも嫌だったわたしは、彼に言われたとおり扉を開けた瞬間のことを思い出してみることにした。



