すべての花へそして君へ②


「……ねえ。ほんとに行くの」

「え? うんっ。だって、わたしが行った方が手っ取り早いでしょ?」


 それから船は、少し西へと移動。その時は、見覚えのある海岸が目に入ってきて、さすがに気分が悪くなって。ヒナタくんの方へ少しだけ、もたれかけさせてもらったけれど。それも今は落ち着き、飲み物を飲んだわたしは自分で頬に気合いを注入! 一人やる気満々である。


「……」

「……ヒナタくん? 大丈夫。強がりなんかじゃないよ?」


 引っ張られるライフジャケット。弱々しいその力に、不安そうに俯いていた彼に、そう声をかけるけれど……。


「……オレも、行く」

「え? 大丈夫大丈夫」

「いやだ。絶対行く」

「えー……」


 そう言いながらだんだんと強く握ってくる手に、なんだかおかしくなって小さく笑う。


「ヒナタくん、絶対」

「……?」

「絶対。ぜーったい、帰ってくる」

「……」

「約束する。破ったら何でも言うこと聞こうじゃないか」

「破らなくても、今言うこと聞いて欲しい」

「ははっ。……ヒナタくん大丈夫。大丈夫だよ?」


 少しでも安心してもらえるように。信じてもらえるように。彼の手をぎゅっと握って。ほんの少し力を加えて。コツンと額をくっつけて。……うんっ。


「なるべく早く帰ってくる。約束する。なるべく……じゃダメだな。超特急で。わたしができる最大限の力を使って、急いで帰ってくるよ」

「……。……ほんとに、行くの」

「うん。行ってくる」


 わたしができるなら。わたしで役に立てるなら。助けてあげたいから。だから……。
 ……だからね? 待ってて。


「すぐ帰ってくる。絶対に。ヒナタくんが泣いちゃう前に、絶対に帰ってくるよっ」

「……泣かないし」


 そう返ってきた返事に、また小さく笑う。
 ……早く帰ってくるよ。絶対に。
 それでも頷いてくれない彼に、わたしはとっておきの人を連れてきた。これでもう安心だ。


「ほら! こっちの“あおいちゃん”をわたしだと思って!」


 そう言って、彼の手に麦わら帽子を被せた“あおいちゃん”のライフジャケットを握らせる。……うむ。完璧である。


「え。 あ、あおいさん……?」

「いきなり何をするのかと思えばあ」

「とってもいいと思いますよ? あおいちゃん。ブッ」

「日向、よかったな」

「……ハッキリ言って要らないんだけど」


 まあ“あおいちゃん”はアイくんですけどね。アイくんをヒナタくんの横に無理矢理座らせてちょっと満足です。