「……ねえ。ほんとに行くの」
「え? うんっ。だって、わたしが行った方が手っ取り早いでしょ?」
それから船は、少し西へと移動。その時は、見覚えのある海岸が目に入ってきて、さすがに気分が悪くなって。ヒナタくんの方へ少しだけ、もたれかけさせてもらったけれど。それも今は落ち着き、飲み物を飲んだわたしは自分で頬に気合いを注入! 一人やる気満々である。
「……」
「……ヒナタくん? 大丈夫。強がりなんかじゃないよ?」
引っ張られるライフジャケット。弱々しいその力に、不安そうに俯いていた彼に、そう声をかけるけれど……。
「……オレも、行く」
「え? 大丈夫大丈夫」
「いやだ。絶対行く」
「えー……」
そう言いながらだんだんと強く握ってくる手に、なんだかおかしくなって小さく笑う。
「ヒナタくん、絶対」
「……?」
「絶対。ぜーったい、帰ってくる」
「……」
「約束する。破ったら何でも言うこと聞こうじゃないか」
「破らなくても、今言うこと聞いて欲しい」
「ははっ。……ヒナタくん大丈夫。大丈夫だよ?」
少しでも安心してもらえるように。信じてもらえるように。彼の手をぎゅっと握って。ほんの少し力を加えて。コツンと額をくっつけて。……うんっ。
「なるべく早く帰ってくる。約束する。なるべく……じゃダメだな。超特急で。わたしができる最大限の力を使って、急いで帰ってくるよ」
「……。……ほんとに、行くの」
「うん。行ってくる」
わたしができるなら。わたしで役に立てるなら。助けてあげたいから。だから……。
……だからね? 待ってて。
「すぐ帰ってくる。絶対に。ヒナタくんが泣いちゃう前に、絶対に帰ってくるよっ」
「……泣かないし」
そう返ってきた返事に、また小さく笑う。
……早く帰ってくるよ。絶対に。
それでも頷いてくれない彼に、わたしはとっておきの人を連れてきた。これでもう安心だ。
「ほら! こっちの“あおいちゃん”をわたしだと思って!」
そう言って、彼の手に麦わら帽子を被せた“あおいちゃん”のライフジャケットを握らせる。……うむ。完璧である。
「え。 あ、あおいさん……?」
「いきなり何をするのかと思えばあ」
「とってもいいと思いますよ? あおいちゃん。ブッ」
「日向、よかったな」
「……ハッキリ言って要らないんだけど」
まあ“あおいちゃん”はアイくんですけどね。アイくんをヒナタくんの横に無理矢理座らせてちょっと満足です。



