すべての花へそして君へ②

 押さえつけるように添えられた後頭部の大きな手。締め付けるように回された腰元の長い腕。耳元の囁きに隠れた言葉が、わたしの抵抗しようとする気力さえ、削いでいった。


「……ちょっとは抵抗しろアホ」

「しようと……したん、だけど」

「は?」

「ちから……が。はいん、なくて」

「……バカ。こんなになるまで我慢してるからだ」


 さっきは、あんなに強く拘束していたというのに。大きなため息を落とした彼は、ポンポンと頭を叩いたあと、そっと腕の力を緩めた。


「……お、おいっ」


 けれど、力の入れ方を忘れたわたしの体はそのまま後ろに倒れた。幸いにも、ツバサくんが慌てて支えてくれたおかげで、絶壁後頭部陥没! なんてことにはならずに済んだけれど。


「このまま寝とけ」

「……ごめんなさい」


 そのまま横にしてくれた彼は、再び大きなため息をついたあと、気怠そうにゆっくりと立ち上がった。その手には先程まで飲んでいた缶コーヒー。……また、買いに行くのかな。


「ちょっと、ここで待ってろ」

「何か買ってきてくれるの?」

「連れてくるから」

「……え」

「もう見てらんねえ」

「……えっ! ちょ、ちょっと待って……!」


 何とか気力を振り絞り、彼の足にしがみつく。けれど、元々力持ちの彼だ。わたしくらいの重りなんて屁でもないだろうし、なんならこのままわたしの方が連れて行かれそうな勢いだ。必死に、ステージ脇のカーテンを足で挟んで抵抗した。


「どんだけ嫌なんだよ」

「こ、これだけ……!」

「……だったらいい加減話してくれ。ほんと、マジで見てらんねえんだって」

「……いえ、ない」

「だったらあいつ連れてくるわ。もう我慢の限界」

「そんなことしたら、もうツバサくんは外を歩けなくなるよ」

「……おい。何するつもりだよ」

「走ってる車に全裸で括り付ける」

「……ふざけ」

「本気」

「(目マジだしこいつ……)」


 観念したのか、取り敢えず行くのはやめてくれた。けれど、まだ彼は立ったまま。隣には、座ってくれなかった。


「……話してくれない理由は」

「…………」

「往生際が悪いぞ。言っとくけどな、俺の全裸で何とかなるなら本気で俺は日向を連れて」

「言えない」

「……は? だからどうして」

「言え、ないんだ。言葉にしたら……わたしは」


 そこまで口にすると、彼は勢いよくわたしに掴み掛かった。


「どういうことだよ! まさかお前、また変な霊とか、呪いとかにかかってるんじゃ」

「えっ? だ、大丈夫。今のところ、それはない……です」


 あまりの必死さに、驚きで目を丸くしながら何とかそう答える。
 すると、余程ほっと安心したのか。彼はへなへなと座り込んだ。


「……ビビらせんなマジで」


 ものすごい睨んでくるけどっ。