それから彼は、音も立てずにこの場から立ち去った。こちらには、やっぱり見向きもしないで。
(……見たくない、か)
そうか。ただでさえ不細工な顔がもっと酷い顔になってるのか。
……どどど、どうしよう。これはもう、整形するか頭から紙袋かぶって生活するしか。
(そんなにひどい、かおしてたんだ……)
自覚は……あったのだろうか。なかったのだろうか。それさえも曖昧すぎて、よくわからない。考え事ばっかりで、正直顔まで気を付けていなかった。
けれど、もう誤魔化し続けることはできない。ツバサくんも、何も言わないけど心配してくれてる。それが正直助かってるけど。カナデくんだってそう。だからわたしを捜しに来てくれた。きっと、みんな気付いてる。
そう――……彼だって。
「…………」
「ねえツバサくん」
「……お前、背中に目でもついてんのかよ。怖えわ」
「訊かないでいてくれて、ありがとう」
「――っ」
静かに背後に立った彼は、今度は苛立ちを足音に混ぜて再び隣にきてくれる。
そして、ドカッと座った隣からまたカコンと音が。どうやら、またコーヒーを買いに行っていたらしい。ていうか何杯飲むんだ。
「イッライラしてしょうがねえんだわさっきから。誰かさんのせいでな」
「……ごめんなさい」
「素直に謝んなよ。調子狂う。つうか何がごめんなんだよ」
「……」
強いて言うなら、こんな顔をしていることに、だろうか。
でも、そう言ったところでツバサくんの苛立ちは静まるはずもない。寧ろ悪化する。確信がある。
「腹立つに、決まってんだろ。お前に、そんな顔させてんだから」
えっ、と。驚きで上げようとした頭は、俯いたまま上がらなかった。
「つ、ば……」
「せっかくの可愛い顔がほんと台無し」
後頭部から直接響く、艶めいた低い声。
上から乗っかってきたのが頭だとわかった瞬間、いろんな意味で固まった。
「ツバサくん、……えっと」
「あのな、葵」
「は、はい」
「俺は前回のことで学習した」
「……はい?」
「お前は、本当にしんどいことは絶対に人に話さない」
痛いところを突かれ、逃げようとしたわたしを腕一つで止めた。
「い、いひゃい」
「まだこっちの方がましだな」
……いや、指二つで止めた。ほっぺたを抓まれた。結構強めに。
「けどな、前回とは違って原因はわかってんだよ」
「ふわはふん、いひゃいっ」
「それをわかってて、黙っていられるわけねえだろ」
「はっ、……はなひて」
「訊かないでいてくれて、だあ……? ふざけんじゃねえ。訊きたくねえから黙ってたんだボケ」
「はなひへ、っへば……!」
「お前が! 【日向のことで悩んでます】って顔してるから、こっちはここ最近ずーっとイライラして腹立って仕方ねえんだよ!」
「……!! っ、つばさく」
グイッと体を引っ張られたかと思ったら、軋みそうなほど強く、抱きしめられた。……全然、ビクともしない。
「逃げられるもんなら逃げてみろ」
――死んでも離してなんかやんねえ。



