けれど、ボソボソと呟いて。彼は、真っ直ぐな双眸でこちらを見つめた。
「アオイちゃん」
「ん? なーに?」
そして彼はひと言、優しい笑顔と一緒に、わたしに言葉を突きつけてきた。
「………………」
――君も一緒でしょ、と。
「ねえツバサー」
「なんだよ」
「アオイちゃんお墨付きの相談屋さんは、何か俺にアドバイスとかくれないのー?」
「端から相談なんかするつもりなかったくせに何言ってんだよ」
「そんなことないよー。まあ、『もう迷わないから』って、一応報告はしておきたいなーとは思ってたけど」
「へーへー。それはようござんした」
「……それで? アドバイスは?」
「理由に見当がついてるんだからいちいち訊いてくんな」
「なんとなくだけどね」
「はあ。……あいつんとこ行く前に、まだすることあるんじゃねえの」
「だね~」
「あと」
「ん??」
「話さなきゃいけないこと、ちゃんと考えとけよ。足らない言葉がないように」
「……さんきゅ」
「いいからお前さっさとクラス戻れよ。シフトさぼんな」
それからしばらくして、遠くの方でカナデくんを呼ぶ声が聞こえた。Sクラスの子の声だ。サボっている彼を捜しに来たのだろう。そこでようやく、俯いてたわたしはカナデくんがもう目の前からいなくなっていたことに気付いた。
……どれくらいの間、そうして固まってしまっていたのだろう。振り向いたそこに、先程までいた彼の姿もない。
「……よいしょ、と」
ひとつだけ点いていた照明を落として。真っ暗な講堂の中。ステージの隅っこ。はじめにいたときと同じように、そこで一人、膝を抱えて小さくなった。
締め切られた真っ暗な世界は、まだ、観客の熱気が残っているのか少しむっと暑くて。暗闇に目が慣れても自分の指の先はもう、見えなくて。耳が痛くなるほどの音のない世界に、不愉快まではいかないものの、あまりいい気分にはなれない。
けれど、そんな世界がそっくりだった。今の心に。
「……はあ」
そうしていると、わたしではない誰かが、大きなため息を落としたような音がした。
パチッとひとつ、頭上の灯りだけ、点いた。
隣に座った誰かが、カコンッとプルタブをつまんだ。
「……最近よく、おんなじこと言われるんだ」
「なんて」
「言った言葉が、自分に返ってくるようなこと」
「だろうな」
ハッキリとした声は、しんと静かに静寂の中へ消えてなくなった。
けれど、そのたったひと言。真っ直ぐすぎる肯定が、酷くわたしの心を掻き乱す。
「……して」
「ん?」
「どう、して……」
「は? ハッキリ言えよ」
棘のある声に、ビクリと体を震わせながら、消え入りそうになる声を、何とか絞り出した。
「どう、して。ひとり……に、させてくれないの」
「愚問だな。させたくねえからだよ」
「なん、で」
「なにが」
「……なんで、ツバサくんは……」
……一回もこっち、見てくれないの。
「……愚問だな」
束の間の沈黙。それを、小さく洩らした声でそっと破って、彼は缶コーヒーを大きく呷った。
「見たくねえからだよ」



