すべての花へそして君へ②

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『ヒナタ、お前このあとは?』

『クラス行くよ。シフト入ってるから』

『お、マジか。頑張れ』

『チカも入ってたよ』

『うえっ!? マジか』


 と、いうわけで、ヒナタくんはこのあとも忙しいらしい。今日はやっぱり難しそうだ。明日またチャレンジしてみることにした。
 チカくんよ、聞いてくれてありがとう……と、感謝をしながらトホホと落ち込んでいると、「お疲れさん」と頭の上にぽんっと何かが乗っかった。


「ミルクティーだけど、好き?」

「好きー! もらっていいの?」

「いいから買ってきたんだよ」

「ありがとう!」


 それを受け取ると、彼はわたしの隣に腰を掛けた。そしてカコッと音を立ててプルタブをつまみ、ブラックコーヒーの缶を空ける。


「……ん? どうしたんだよ」

「いやあ、大人だなあと」

「……飲んでみるか?」

「わかってるくせに」


 ははっと声を上げて笑った彼は、「まあな」と小さくやさしく洩らす。ただ、それだけ。
 缶を呷っては、両手で持ってぼうっと遠くを見つめて、また呷って。……本当にそれだけ。


「……おいしかった?」

「まだ残ってるぞ」

「わたしも、まだミルクティーがあるもん」

「口直しに一口とかどうよ」

「遠慮しとく」


 じっと見ていることに気付いているのに、彼は座ってからわたしと目を合わそうとしなかった。
 ただ、わたしの隣に座っているだけ。……コーヒーを飲みながら。それだけ。本当に……それだけ。


「つ……ツバサく」


 まるで、我慢大会でもしているかのような気分だ。
 けれど、とうとう耐えられなくなって声をかけようとしたそのとき、パタパタと遠くの方で足音が響いた気がした。もう講堂は出入りできないようになっているはずなのに。まだお客さんが残っていたのだろうか。


「アオイちゃーん! いたら返事してー!」

「……カナデくん?」

「そういえばさっき、葵の居場所聞いてきたっけ」

「え。何で教えてあげないの」

「いや、普通にど忘れしてた」


 いやいや、そこは覚えてあげようよ。声を聞く限りかなり必死そうだよ?


「……いやいや、いるなら返事してよ。アオイちゃん」

「あ、ごめんカナデくん。ツバサくんに突っ込み入れててすっかり」

「……ツバサも、アオイちゃん見つけたなら教えてよ」

「悪い。すっかり忘れてた」


 あ。なんだかカナデくんがものすごい悲しそうな顔に。慌てて用事を聞いてみた。


「……ここじゃ、ちょっと」

「……そうなの?」

「いや、ツバサが……」

「俺が聞いちゃ不味いこと……って、何するつもりだよお前」

「何もしないよ!? ただ相談を、……あっ」

「「相談??」」