すべての花へそして君へ②


「……え。さすがに勢いつけすぎじゃない? キサ大丈夫だよね? 生きてるよね?」

「んー。……大丈夫じゃね? なあ」

「うん。クッション敷き詰めておいたし、問題ないと思う」

「あとは向こうに任せればいいだろ」


 黒衣並びにこんなことをしたわたしたち三人がそう答えたあと、みんなして真っ暗な奈落を覗き込んでみる。全く底が見えないのがちょっと不安だけれど、まあ大丈夫だろう。


「それじゃあキサはここで解散ねー。また明日ー」


 下から返ってきたのは、ヒナタくんの張った声のこだまか、キサちゃんの文句か。そこまではっきりとは聞き取ることができなかった。
 ……でも、きっと大丈夫だろう。ここにいるみんなの今までの心配そうな顔も、今じゃすっかり緩みきってる。


「ていうか桃子はそこまでわかってたの?」

「そだねー」

「怖っ! 桃子こっわ!!」

「柊、オレを見て言うな。怖いのは完全に九条だろう」


 レンくんの言葉に、一同大きく頷いた。


「ふふっ。それじゃあ、本公演はこれにて無事終了かな?」

「完璧な計画に鳥肌立つわー」

「ははっ。そだねー!」


 きっと桃子は、本当の意味でカグヤを笑顔にしてくれたんだ。


 ✿


「――んぶふっ!!」


 ようやく気持ちの悪い浮遊感がおさまったかと思ったら、顔面から柔らかいクッションにダイブ。軽く鞭打ちみたいになったんだけどっ。


「ていうか何!? 日向の奴一体何企んで……」


 それよりもここは? ステージの上から落ちたってことは、奈落……なんだろうけど。


「……真っ暗で何も見えない。出口どこ……」


 スマホだって持ってないのに、ここからどうやって出ればいいの。


「じゃあ取り敢えず、来た道戻ってみるってのはどうだ?」

「それもそうね。ってことはこのワイヤーを伝って戻っ、……て」


 聞こえた声に返事をして、初めは怖くなった。どうしてこんなところに、人がいるんだろうかと。
 ――けれど、それとは別の理由で、瞬く間に涙が、嗚咽が止まらなくなった。

 どこ……。どこにいるの。

 彼を求めて、探して。彷徨う手を、そっと誰かが、包み込んでくれた。


「――キサ」


 瞬間、グイッと引き寄せられて、すっぽりと大きな体に抱き留められる。


「きく、ちゃ」

「会いたかったキサ。やっと会えた。……抱きしめ、られた」


 強く強く抱きしめられながら、あたしの目がようやく暗闇に慣れはじめた。
 皺くちゃじゃない白衣。全然しない煙草の匂い。それだけで。彼のいつもには、あたしの存在があったんだと、思い知らされる。


「……あっ。……が。……って……」


 あたしも、会いたかったんだ。ずっとずっと。
 でも、我慢しなきゃって。そう……思って。

 涙で紡げない言葉ごと、彼は一緒に受け止めてくれた。


「頼むからもう、我慢すんな」


 ――オレが、堪えらんねえから。

 そんな彼に小さく笑って。少し震える彼の背中に、そっと腕を回した。


「……ありがとう」


 みんなからのサプライズプレゼントを、大事に抱きしめた。