「……え。さすがに勢いつけすぎじゃない? キサ大丈夫だよね? 生きてるよね?」
「んー。……大丈夫じゃね? なあ」
「うん。クッション敷き詰めておいたし、問題ないと思う」
「あとは向こうに任せればいいだろ」
黒衣並びにこんなことをしたわたしたち三人がそう答えたあと、みんなして真っ暗な奈落を覗き込んでみる。全く底が見えないのがちょっと不安だけれど、まあ大丈夫だろう。
「それじゃあキサはここで解散ねー。また明日ー」
下から返ってきたのは、ヒナタくんの張った声のこだまか、キサちゃんの文句か。そこまではっきりとは聞き取ることができなかった。
……でも、きっと大丈夫だろう。ここにいるみんなの今までの心配そうな顔も、今じゃすっかり緩みきってる。
「ていうか桃子はそこまでわかってたの?」
「そだねー」
「怖っ! 桃子こっわ!!」
「柊、オレを見て言うな。怖いのは完全に九条だろう」
レンくんの言葉に、一同大きく頷いた。
「ふふっ。それじゃあ、本公演はこれにて無事終了かな?」
「完璧な計画に鳥肌立つわー」
「ははっ。そだねー!」
きっと桃子は、本当の意味でカグヤを笑顔にしてくれたんだ。
✿
「――んぶふっ!!」
ようやく気持ちの悪い浮遊感がおさまったかと思ったら、顔面から柔らかいクッションにダイブ。軽く鞭打ちみたいになったんだけどっ。
「ていうか何!? 日向の奴一体何企んで……」
それよりもここは? ステージの上から落ちたってことは、奈落……なんだろうけど。
「……真っ暗で何も見えない。出口どこ……」
スマホだって持ってないのに、ここからどうやって出ればいいの。
「じゃあ取り敢えず、来た道戻ってみるってのはどうだ?」
「それもそうね。ってことはこのワイヤーを伝って戻っ、……て」
聞こえた声に返事をして、初めは怖くなった。どうしてこんなところに、人がいるんだろうかと。
――けれど、それとは別の理由で、瞬く間に涙が、嗚咽が止まらなくなった。
どこ……。どこにいるの。
彼を求めて、探して。彷徨う手を、そっと誰かが、包み込んでくれた。
「――キサ」
瞬間、グイッと引き寄せられて、すっぽりと大きな体に抱き留められる。
「きく、ちゃ」
「会いたかったキサ。やっと会えた。……抱きしめ、られた」
強く強く抱きしめられながら、あたしの目がようやく暗闇に慣れはじめた。
皺くちゃじゃない白衣。全然しない煙草の匂い。それだけで。彼のいつもには、あたしの存在があったんだと、思い知らされる。
「……あっ。……が。……って……」
あたしも、会いたかったんだ。ずっとずっと。
でも、我慢しなきゃって。そう……思って。
涙で紡げない言葉ごと、彼は一緒に受け止めてくれた。
「頼むからもう、我慢すんな」
――オレが、堪えらんねえから。
そんな彼に小さく笑って。少し震える彼の背中に、そっと腕を回した。
「……ありがとう」
みんなからのサプライズプレゼントを、大事に抱きしめた。



