「『そして、今まで貢がれたものや、鶴が新たに織った反物、亀が海で拾ってきたもの、兎が拾ってきた木の実。様々な手を尽くして、とうとう桃子は月へと行く船を完成させたのです』」
そしてステージ上に雲のようなドライアイスの煙が広がり、同時に現れた黒衣がカグヤの背中に何かを引っかける。
『桃子、今まで本当にありがとう。なんとお礼を言えばよいか』
『カグヤ様が幸せならば、それだけで十分です』
『ああ、きっと幸せになろう』
そうして十五夜の月の日
船に乗ったカグヤは月へと帰って行きました
『桃子、お前に幸多からんことを――……』
広がった煙が大きく揺れ、カグヤの体はゆっくりと持ち上がっていき……静かに夜空の月へと消えた。
そして静かに、拍手が起きるのを遮るように。
大きく間を空けて、彼は再び物語を紡ぎ始める。
……ぽつり
ウサギの頭に何かが降り注ぎました
夜空にはカグヤが乗った船ひとつだけ
雲一つない綺麗な月夜でした
不思議に思い桃子を見上げると
彼女の頬には
一筋の月の雫が通ったあとが見えます
『……桃子、泣いているの』
慌てた様子で肩に乗るウサギに
桃子は何も答えませんでした
たった一言、こう言います
『行きましょう。たくさんの笑顔の花を咲かせに』
そして彼らは再び旅に出ました
多くの幸せを叶えるために――――……。



