すべての花へそして君へ②


「『そして、今まで貢がれたものや、鶴が新たに織った反物、亀が海で拾ってきたもの、兎が拾ってきた木の実。様々な手を尽くして、とうとう桃子は月へと行く船を完成させたのです』」


 そしてステージ上に雲のようなドライアイスの煙が広がり、同時に現れた黒衣がカグヤの背中に何かを引っかける。


『桃子、今まで本当にありがとう。なんとお礼を言えばよいか』

『カグヤ様が幸せならば、それだけで十分です』

『ああ、きっと幸せになろう』


 そうして十五夜の月の日
 船に乗ったカグヤは月へと帰って行きました


『桃子、お前に幸多からんことを――……』


 広がった煙が大きく揺れ、カグヤの体はゆっくりと持ち上がっていき……静かに夜空の月へと消えた。


 そして静かに、拍手が起きるのを遮るように。
 大きく間を空けて、彼は再び物語を紡ぎ始める。



 ……ぽつり
 ウサギの頭に何かが降り注ぎました

 夜空にはカグヤが乗った船ひとつだけ
 雲一つない綺麗な月夜でした


 不思議に思い桃子を見上げると
 彼女の頬には
 一筋の月の雫が通ったあとが見えます


『……桃子、泣いているの』


 慌てた様子で肩に乗るウサギに
 桃子は何も答えませんでした

 たった一言、こう言います


『行きましょう。たくさんの笑顔の花を咲かせに』


 そして彼らは再び旅に出ました
 多くの幸せを叶えるために――――……。