すべての花へそして君へ②


『……お前などに、何がわかるというのだ』

『わかりません。貴方様のその思いを推し量ることなど、私にはできかねます』

『そうやって、私に取り入ろうとしているのだろう。貴様の魂胆など見え見えだ』


 カグヤの声が震えていたのは
 悲しさからか、寂しさからか
 それとも、核心を突いてくる桃子への恐れか


『カグヤ様、決して桃子はそのような者ではございません』


 半ば諦めようとしていたそのとき
 鶴の声が、一際大きく響き渡ります


『桃子は、罠にかかっていた私を助けてくれました。そして、決して約束を破ることはありません』

『桃子は思慮深い女性です。決して、あなたを裏切ることはありません』

『桃子は、間違っていることをはっきりと言える女の子です。心から貴方様をお助けしたいと思っています』


 そして、鶴が、亀が、兎でさえ
 カグヤの力になろうと必死に声を上げます


『……申したところで、叶うものか』

『必ず。あなたの願いを叶えてみせましょう』


 そうしてカグヤは力尽きたように項垂れ
 ぽつり、ぽつりと話し始めます


『私は、元は月に住まう者。しかし、もう二度と、光り輝く都へは戻れぬのだ』


 けれど……逢いたい
 もう一度、逢いたい

 逢って、言葉を交わしたい者が
 夜空に浮かぶあの場所にいるのだと

 カグヤは一人、大きな月を見上げました

 そんなカグヤのそばに立ち
 同じように桃子は夜空を仰ぎます


『幾年月経とうとも、必ず貴方をあの月へと帰しましょう』


 彼らは契ります
 いつか訪れるであろう日を夢見て――――……