すべての花へそして君へ②


『……望月って、確か神の子でしたよね?』

『ええ。そうね』

『正直言って、お月様に神がいるなんてそんなのあるわけないですし、そもそも神様なんてわたし信じてないんですけど』

『そ、そう……』

『でも、神の子はこんな家だったから月は嫌いだったかも知れません。うちの母も、嫌いではなかったものの、好きではなかったみたいですし』

『……』

『この日はちょうど満月。月がとても大きく見える日です。そして海は、周りに何もありませんし、見晴らしがいい』

『……と、いうと?』

『こちらからもよく見えるということは、“あちら”からもよく見えるということ。お月様はもしかすると、神の子に会えてもっと近くで見たかったんじゃないかなと』


 そうにっこり笑うと、ぽか~んと、揃いも揃ってみんな口を開けてアホ面。


『……まあ、冗談はさておいて。ここから真面目な話をしますね』


 そんな切り替えに、またもや昭和のようにみんなずっこけてくださった。ありがとうございます。皆さん本当にお優しいいい。


『正直言って、計算はあてにならないと思うんです』

『ま、まあただの計算だし? 頼るものが他になかったからこれを頼りにはしているけれど……』

『はい。それはそれでいいと思います。しょうがないと思います。この大海原で、たった一人の女性を見つけるなんて、的を絞らないとまず無理だ』

『……それで?』

『さっき言ったのも、あながち冗談だけではないんです。この世の中、いろんなよくわからないもので溢れ返っていますから。だからほんとに、お月様がモミジさんを“迎え”に来ようとしたのかも知れない』


 その言葉に、その場の全員が身震いする。


『代々月を大事にしていた家の子だ。お月様自体は、家を嫌いではなかったと思いますよ? それで、もしこの日、観測はされなかったけどちょっと月が近づいていた、と考えて……』


 ――地図上の海を、ぐるっと丸い円で囲む。


『満ち潮か引き潮か。そのどちらでも、計算上ではこの範囲だろうとは思います。舟の傷みと重りが、あまりにも酷すぎる』


 言葉にする度、重みを増してくる現実に、その場の空気がどんどん重くなっていく。それをひしひしと感じながらわたしは、その地図を机から取っ払った。