すべての花へそして君へ②

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 迎えを待ちながら、二人並んでそっと花壇に腰を掛けていた。僕らにとっては珍しくもない百合に顔を近付け、彼女は嬉しそうに花の香りを嗅ぎながら。その横顔は、可愛らしさの中にどこか妖艶さも見え隠れしていて、とても芳しく見え……。


(って、何を考えてるんだ僕は)


“朝日向葵”である彼女に。“道明寺葵”であった彼女に。決して特別な感情を抱いてはならない。決して一線を越えてはならない。
 弁えろ、自分の立場を。だって僕は彼女を――――……。


『……僕は、君に感謝されるような人間じゃないよ』

『なぬ?! わたしの感謝が受け取れないとな!?』

『うん。ごめん』

『じゃあわたしも受け取らなーい』

『え?』


 そして彼女は、何もかもをわかっているような口振りで『それに、はじめから何も受け取るつもりはなかったしね』と一人呟く。


『……でも』

『【多くを問う者は多くを学べ】』

『……え?』

『わたしの信条。わからないことは追求する。でも、わかっていることを敢えて聞こうとは思わない。しないよ』

『……葵、さん』

『タカトはタカト。わたしはわたし。……それだけでしょ?』


 けれど、彼女は笑って僕にこう言うだけだった。


『友達になるのが遅くなっちゃったね』


 先程までの彼女との会話にクスッと思い出し笑いをしていると、両側の二人が不思議そうにこちらを見つめてくる。なんでもないと、そう伝えようとしたそれは、再び漏れた笑いのせいでままならなかった。
 なんて彼女は恐ろしいんだろうか。1から10ではなく、0から100までをわかっているなんて。恐ろしい以外の言葉が見つからない。


「……ふはっ」


 それなのに、どうしてこうもおかしくて仕方がないのだろう。これも、彼女のなせる技なのか。まあ“僕が知っていた方”に比べると、ちょっと変わってるみたいだけど。


『将来は医者じゃなくて獣医を目指すの?』

『……えっ』

『あ、もしかして秘密だった? ごめんごめん、今の無しで』


 解剖実験の練習――確かにそう話したはずなのに、彼女は簡単に真相を突いてきた。
 どうしてそう思ったのか。聞いてみたら『なんか獣臭かったから』とか真顔で言ってくるんだもんなあ。今思い出しただけでもまた噴き出しそうになる。