「んで、オレはあいつにプロポーズをする」


 ……えっ。


「ん? なんか問題あったか?」


 大有りじゃい。しかも、どっちかって言うとあなたに。


「先生のことを思って先に言うけど、あなた確実に振られるよ」

「……やっぱりオレじゃダメか」

「いやいや違う。そうじゃない」


 ……うん。ひとまずあなた、キサちゃんに会ってきなさい。そんでもって、一回ちゃんと話しなさい。
 あなたたちに足りないのは、お互いが何を思っているのか考えているかを知ることだ。プロポーズはそれからね。


「じゃないと、ごま粒みたいな勇気が一目散に逃げてどっか行きますよ」

「ご、ごま粒……」


 ごま粒がそんなにウケたのか。くつくつと、彼はなぜか押し殺すように笑っている。


「……キク先生?」

「なんでこうも、自分には疎いかねえ」

「え?」

「あれか。無駄に頭がいいからか、それとも馬鹿なせいか」

「ちょっとちょっと」


 そんな悪口を真剣に悩みながらぶつぶつ呟いていたかと思ったら、彼はビシッとわたしを指差した。


「その言葉、そっくりそのまま返品してやる」


 と、言いながら。


「何言ってるんですか。返品不可ですよ。というか、あんなこと言っておきながら返品してくるとか……」


 さすが、キク先生としか言いようがない。
 けれど、返品の意味をわかっていないのはどうやらわたしの方だったみたいだ。


「どうしてそれが、自分に言ってやれない」


 答えは簡単だ。自分だから、言えないんだ。


「今までのはあれですか。進路希望調査に〈菊ちゃんのお嫁さん〉って書いてなかったことへの当て付けですか。八つ当たりですか。それが言いたいがための作り話だったんですか。しおらしくしてたくせに」

「んにゃ、嘘じゃねーよ。本気の人生相談」

「……本気って。仮にも大人が……教師が」

「大人だって教師だって関係ない。人の言葉が欲しいときだってあるんだ」


 それがたとえ生徒でも。
 そうしてふっと笑った彼は、少しだけ寂しそうだった。


「残念だが、オレの言葉はお前さんみたいな力は持ってない」

「……だからなんですか。自分に自分の言葉を言わせて? 一体、何の意味があったと……」

「自分で気付けただろ。お前さんが今、真っ先に何をしなくちゃいけないのか」


 進路相談なんかよりも先に。
 彼は、本当にそれだけを言うために、隠し事を話してくれたというのか。彼は、わたしが何に悩んでいるのかも、多分知ってるんだ。だって、あまりにも……。


「だから、言葉の代わりにちょっくら教えてやる」

「え? な、なにを……?」

「男をだ」

「え」