言葉の並びにパッと思いつくのは“low light level TV”――低光量テレビ。銃砲の目標追跡装置とかに使われてるみたいだけど、きっとこれは関係ないだろう。
他に思い当たる言葉はあるか、頭の中の辞書を猛スピードで捲ってみるけれど、いい答えには巡り会えそうにない。
「ねえ葵さん」
「……? わたしも“さん”付けなくていいよ?」
「いやいやいや。僕なんかが君を呼び捨てにするなんて恐れ多いから」
「……そんなことないよ。変なこと気にしないで?」
けれど彼は、頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。それはあとで交渉することにして、仕方なく続きの言葉を待ってみる。
「桜には、【三本柱】みたいなものってある?」
彼が、一体その先に何を求めているのかはわからなかったけれど、わたしはこれを、彼なりのヒントだと受け取った。
「それなのに居場所は知らないんだよねー」
「うん。ぜんぜーん知らない」
百合ヶ丘には、【三本柱】なるものが存在するらしい。
今まで走った校内や、アイくんたちに親睦会でプレゼンしてもらった中に、それに値するようなものがあっただろうかと考えていると、「それで?」と彼はわたしに先程の回答を求めてくる。
「え? あ、うーん。どうだろう?」
正式名称なら知ってるけど、建物の別名かあ。わたしは、そういうのには疎いからな……。
でも、雰囲気は違うものの、桜と百合はどこか造りが似ているような気もする。もしかしたらそんな風に呼ばれる場所もあるのかもしれない――
「あれ? そうなんだね。僕はてっきり、朝日向と海棠と皇がそれに当たるんだと思ってたから」
「君が知らないってことは、やっぱり桜にはそういうのってないのか……」と、彼はぶつぶつ独り言を呟いている。
「……ん? あれ。どうして口チャック?」
「んんんんーっ」
場所のことだとばかり。完全に勘違いしていた。そうならそうとハッキリ言っといてくれ。素で変なこと言いそうになったよ。
「――ぷはっ。……うーん、そうだなあ。百合の三本柱でしょ? そう考えると、あそことあそこと……」
ぽつぽつと候補を挙げていくけれど、彼からの反応は一切ない。
「――――……」
代わりに一度小さく口を動かしたみたいだけれど、それを音で聞き取ることは、この距離にいるわたしにもできなかった。



