この季節、街は濃い霧で覆われるらしく、バスなどは本数を減らして運行しているとのこと。
けれど、そもそもこの高級住宅街。公共交通機関を利用する人たちは少なく、あまり不便にも思わないそうだ。数少ない利用者にとっては一本逃すと一大事だが、さすがは超が付くほどのお金持ち学校。下校時刻になると、完備しているロータリーや大駐車場には高級外車平然と駐まっていた。
(まあ、桜もここまでじゃないけど似たようなもんか)
それも日常の光景なのか、物珍しく見ている御上りさんは、ここには誰もいない。もちろん、わたしたちの中にも。
ここは、霧を抜けた先。花壇にはたくさんの花々が植えてある中、やはりあの花が一番、存在感を顕著に主張していた。
「桜ヶ丘の生徒会の皆様、ようこそおいでくださいました。お話は理事長乃至生徒会長より仰せ付かっております」
今日、わたしたちは南の方へと足を運んでいた。そう。待ちに待った百合との親睦会である。
……にしても、北から南へ山をひとつ越えただけでこんなにも“空気”が変わるのか。そんな関心を向けながら、わたしたちは顔の四分の三をマスクに覆われた、見た目は奇抜でもとても親切な燕尾服を着た男性に百合の中を案内されていた。
「――――……」
しかし放課後ではあるものの、それでもここでのわたしたちは異質な存在。目をとめる生徒は少なくなかった。そして、やはり校風や人がそもそも違うのだろう。全校生徒の九割を有名人や由緒ある家系の人たちで占めているという百合ヶ丘は、常に少し気を張っているような印象だ。
そんな彼らは、わたしたちを遠巻きに見るだけで、追い回したりすることも、ましてや身包みを引っ剥がしに来ることもない。
「……ん? なんかあったのか?」
「大丈夫だチカくん。それは愛されている証拠だ」
「いや何がだよっ」
違うか。これは理事長の影響か。あの人の自由すぎる生き方が、きっと生徒にまでうつったのだろう。
それにうちは、確かに御子息や御令嬢も在学しているけれど、買っているのは能力だ。一般の生徒も多くいるから、そのあたりの壁というものは正直一切感じたことがない。……それもきっと、理事長のおかげだろう。



