すべての花へそして君へ②


 再びぎゅっと手を握ると、彼が何かを呟いた。


「え?」

「……今日の女子会、楽しかったかなって」


「どんな話したの?」とか、きょとんとした可愛い顔で聞いてくるから、危うく正直に答えそうになったけど、それについては恋バナとだけ伝えて大雑把に濁しておいた。


「……濁せてないよ? つまりオレのことじゃん」

「はっ!」


 ほんとだあ……。本気でビックリしていると、そんな様子のわたしにヒナタくんは逆にビックリしている。


「それで? オレの何話して顔真っ赤にしたの? ん?」

「ひっ、ヒナタくんも今日は男子会だったんだよね!? 楽しかった??」

「切り返し下手か」

「これがわたしの精一杯じゃ」


 ふっと楽しそうに笑みを浮かべる彼は、「まあ普通に楽しかったよ」と「でもちょっとおでこ痛い」と、そのときのことを少し教えてくれたけど……お、おでこ? あ。でも言われてみれば心なしか赤くなってるような気もする。
 じーっとおでこを見つめていると、大丈夫だからと眉根を寄せた彼は少しだけ迷惑そうだ。けれど、それに懲りずに手を伸ばすと、根負けしてそっと身を屈めてくれた。


「……痛い?」

「んー、まだちょっとだけ」


 冷やしたんだけどね、と言う彼のおでこは一応腫れてはいないみたいだ。でも一体どうしておでこを痛めたやら。


「まさか喧嘩でもした? 頭突き合いとか」

「まさかまさか」


 と、ハハッと小馬鹿にしたように彼は鼻で笑う。……こんな顔もするんだ。
 まあ彼らが喧嘩するのも馬鹿馬鹿しい話か。仲悪いとこなんか想像できないし。よしよしと何回か撫でていると、彼はさっと体を起こす。


「そろそろ行こっか。帰りが遅くなる」


 繋いでいた手は、静かに離れていった。けれど、さっきよりも心寂しくないのは、きっと今の間に少しだけ充電できたからだと思う。……言うほど変わってないけど。
 でも、この状態が永遠に続くわけではない。だからもう少し。……もう少し、頑張ろう。


「最近、なんか変わったこととかあった?」

「ん? どうして?」


 再び相合い傘の中。彼は少し声を張ってそんなことを聞いてくる。
 変わったこと? あったと言えばあったけど、改めてヒナタくんに言うことは……。


「あ!」

「なんかあったの?」

「庭に植えたヒマワリがやっと咲いたの!」

「ああ、あれね。リベンジできてよかったね」


 そう。あの家に帰ってからもう一度チャレンジしたのだ。大事に育てたヒマワリの花は、ついこの間無事に咲いてくれた。
 ……だから。だから、きっと何があっても大丈夫。