すべての花へそして君へ②




 窓には、何も見えないくらい、滝のような雨が絶え間なく流れている。
 すっかり日の沈んだ夜の世界。その真っ暗な闇を見つめながら、わたしは一人、ガタンガタンと電車に揺られていた。


 ――――――――…………
 ――――――……
 ――――……


 雨の日は、あんまり好きじゃない。なんてったって、父直伝の天パが存分に力を発揮してしまうからだ。
 でも、今日に限っては雨で……しかも大雨でよかったって。心の底から思った。


「そっち、濡れてない?」

「え? なに??」

「ぬーれーてーなーい?」

「あ! だーいーじょ」

「ふーん」

「せめて最後まで言わせてっ」


 じゃないときっと、心臓の音が聞こえてしまっていただろうから。まあ、話し声もあんまり聞こえなかったけど。
 決めて早々の近い距離に、彼は今何を思っているのだろう。やっぱり、あまりいいとは思ってない、かな。


「あ、あの。ヒナタく――」


 信号待ちの中、ごめんねと一度謝ろうとした自信のなさげな声は、それを凌ぐ雨音によって思い切りかき消された。


「ちょっと雨宿りしよう!」


 声を張った彼は、斜めに叩き付けてくるそれから逃げるよう、近くにある軒下の方へ、わたしの手を引っ張っていく。
 ひとまずは――そう思ったときだ。視界が真っ白になるほどの雨が降り注いできたのは。ちょうど傘を差していた人たちは、そのあまりにも強い雨に叫び声を上げているほど。なんとか避けられたわたしたちは、ふうと安堵の息を漏らした。


「今日って降水確率何%だった?」

「確か10%だったよ」


 今日の天気予報士さんは大外れだったねと、二人して笑っていると、未だに手が繋がれていたことに気付く。


「ごめん」

「やだ!」

「え」


 つい本音が。しかも、この雨に負けず劣らずの声。
 けれど、言ってしまったものはしょうがない。このまま言ってしまおう。


「もうちょっと繋――」

「ダメ」

「うぐ……」


 今日のヒナタくんは意地悪だ。全然最後まで言わせてくれない。
 だよね。そうだよね。決めたもんね。これ以上破ったら決めごとの意味なくなっちゃうもんね。


「……ごめんなさい」


 がっくりと肩を落としそっと手を離せば、あっという間に彼の体温を大粒の雨が奪っていく。今日の空は、まるで――……。


「オレの心みたいな雨」


 まるで、わたしの心を映したかのような雨だ。
 えっと顔を上げようとしたとき、ふわっと何かが掛けられた。


「着て。濡れてるけどないよりはマシだろうから」


 と、言いつつ黙々とわたしに自分のパーカーを着せるヒナタくん。
 あらま、ファスナーまで上げてくれるんですか? あららフードまで? 何から何まですみませ――


「……ヒナタくん」

「っ、な、なにっ?」

「……紐まで引っ張らなくてもいいと思うのね」

「ぶはっ!」


 楽しそうで何よりですけど、わたし目見えてないからね。顔潰れてるんだからね。