窓には、何も見えないくらい、滝のような雨が絶え間なく流れている。
すっかり日の沈んだ夜の世界。その真っ暗な闇を見つめながら、わたしは一人、ガタンガタンと電車に揺られていた。
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雨の日は、あんまり好きじゃない。なんてったって、父直伝の天パが存分に力を発揮してしまうからだ。
でも、今日に限っては雨で……しかも大雨でよかったって。心の底から思った。
「そっち、濡れてない?」
「え? なに??」
「ぬーれーてーなーい?」
「あ! だーいーじょ」
「ふーん」
「せめて最後まで言わせてっ」
じゃないときっと、心臓の音が聞こえてしまっていただろうから。まあ、話し声もあんまり聞こえなかったけど。
決めて早々の近い距離に、彼は今何を思っているのだろう。やっぱり、あまりいいとは思ってない、かな。
「あ、あの。ヒナタく――」
信号待ちの中、ごめんねと一度謝ろうとした自信のなさげな声は、それを凌ぐ雨音によって思い切りかき消された。
「ちょっと雨宿りしよう!」
声を張った彼は、斜めに叩き付けてくるそれから逃げるよう、近くにある軒下の方へ、わたしの手を引っ張っていく。
ひとまずは――そう思ったときだ。視界が真っ白になるほどの雨が降り注いできたのは。ちょうど傘を差していた人たちは、そのあまりにも強い雨に叫び声を上げているほど。なんとか避けられたわたしたちは、ふうと安堵の息を漏らした。
「今日って降水確率何%だった?」
「確か10%だったよ」
今日の天気予報士さんは大外れだったねと、二人して笑っていると、未だに手が繋がれていたことに気付く。
「ごめん」
「やだ!」
「え」
つい本音が。しかも、この雨に負けず劣らずの声。
けれど、言ってしまったものはしょうがない。このまま言ってしまおう。
「もうちょっと繋――」
「ダメ」
「うぐ……」
今日のヒナタくんは意地悪だ。全然最後まで言わせてくれない。
だよね。そうだよね。決めたもんね。これ以上破ったら決めごとの意味なくなっちゃうもんね。
「……ごめんなさい」
がっくりと肩を落としそっと手を離せば、あっという間に彼の体温を大粒の雨が奪っていく。今日の空は、まるで――……。
「オレの心みたいな雨」
まるで、わたしの心を映したかのような雨だ。
えっと顔を上げようとしたとき、ふわっと何かが掛けられた。
「着て。濡れてるけどないよりはマシだろうから」
と、言いつつ黙々とわたしに自分のパーカーを着せるヒナタくん。
あらま、ファスナーまで上げてくれるんですか? あららフードまで? 何から何まですみませ――
「……ヒナタくん」
「っ、な、なにっ?」
「……紐まで引っ張らなくてもいいと思うのね」
「ぶはっ!」
楽しそうで何よりですけど、わたし目見えてないからね。顔潰れてるんだからね。



