すべての花へそして君へ②


「寂しいなら寂しいって――「寂しいわよ!!」……言った」


 思い切り睨み付けると、彼は少し拍子抜けしたような表情。それにふんっとそっぽを向くと、今度は笑いを我慢しているような音が聞こえてくる。


「お、お前ねえ、ここではっきり言う奴があるか……?」

「あら、言って欲しいんじゃなかったの」


 高圧的な態度に、「……可愛くない」と今度はふて腐れた声。だったら、結局あんたは何がしたいんだ。
 そうやって文句を言おうと視線をやれば、ハンドルに両腕を置き、はあと大きく息を吐いていてそれもままならない。


「……今だけは可愛くなっとけよ」

「なんであんたの前でなんないといけないのよ」


 なるのは菊ちゃんの前だけ――そう言いながら頬杖を突こうとしたときだ。その頬が、濡れていることに気付いたのは。


「ああ言い忘れてた。……今だけは“素直に”可愛くなっとけよ」

「……っ、とーまの、きざお……っ」

「ばーか」


 伸びてきた手があたしの頭をやさしく撫でていくたびに、我慢していたものが堰を切ったようにこぼれてくる。
 涙が。不安が。寂しさが。堪えきれなかった悔しさと一緒に、嗚咽と一緒に落ちていく。


「たまには口に出さねえと。そればっかりが溜まるだけで腹一杯になんねえぞ」


「もうウェディングドレス着るのか? 気が早えな」そんなぼやきはあまりにもやさしくてあたたかくて。彼にもいろいろ心配をかけてしまったことに、今更ながら申し訳なさが募る。


「とーま」

「ん? なんだよ」

「……ちょっと、さみしい」

「だいぶ、だろ?」

「まだ……かな」

「もうちょっとだよ」


 耳にかかる杜真の声は、今までで一番やさしい気がした。……いやいや。あの杜真だよ? そんなわけないない。
 きっとこれは……そう、雨の音だ。それから、あのお酒のせいだ。あたしは、泣き上戸なんだ。初めて知ったわよ、そんなこと。