「寂しいなら寂しいって――「寂しいわよ!!」……言った」
思い切り睨み付けると、彼は少し拍子抜けしたような表情。それにふんっとそっぽを向くと、今度は笑いを我慢しているような音が聞こえてくる。
「お、お前ねえ、ここではっきり言う奴があるか……?」
「あら、言って欲しいんじゃなかったの」
高圧的な態度に、「……可愛くない」と今度はふて腐れた声。だったら、結局あんたは何がしたいんだ。
そうやって文句を言おうと視線をやれば、ハンドルに両腕を置き、はあと大きく息を吐いていてそれもままならない。
「……今だけは可愛くなっとけよ」
「なんであんたの前でなんないといけないのよ」
なるのは菊ちゃんの前だけ――そう言いながら頬杖を突こうとしたときだ。その頬が、濡れていることに気付いたのは。
「ああ言い忘れてた。……今だけは“素直に”可愛くなっとけよ」
「……っ、とーまの、きざお……っ」
「ばーか」
伸びてきた手があたしの頭をやさしく撫でていくたびに、我慢していたものが堰を切ったようにこぼれてくる。
涙が。不安が。寂しさが。堪えきれなかった悔しさと一緒に、嗚咽と一緒に落ちていく。
「たまには口に出さねえと。そればっかりが溜まるだけで腹一杯になんねえぞ」
「もうウェディングドレス着るのか? 気が早えな」そんなぼやきはあまりにもやさしくてあたたかくて。彼にもいろいろ心配をかけてしまったことに、今更ながら申し訳なさが募る。
「とーま」
「ん? なんだよ」
「……ちょっと、さみしい」
「だいぶ、だろ?」
「まだ……かな」
「もうちょっとだよ」
耳にかかる杜真の声は、今までで一番やさしい気がした。……いやいや。あの杜真だよ? そんなわけないない。
きっとこれは……そう、雨の音だ。それから、あのお酒のせいだ。あたしは、泣き上戸なんだ。初めて知ったわよ、そんなこと。



