――――――…………
――――……
思えば。熱海以来、菊ちゃんとはまともに触れることも会うことも、話すことすらしてないかもしれない。
『……適当にぶらぶら?』
なーにちょっと見栄張っちゃったんだか。本当にぶらぶらしただけだってのに。
本当のことを言うと、期待をしていなかったと言えば嘘になる。だって、あんな夜遅くにわざわざ来てくれたんだ。誰かさんとは違って純粋じゃないから。その辺は欲求爆発したって誰も責めはしないと思う。
『あんまり時間、とってやれなくなる』
でも、そのとき言われたのはこれからのこと。そこで言われたとおり、今はまともに顔さえ見てない気がする。
しょうがないよ、学校の先生なんだし。この時期は特に忙しくなるよ。あちこちからいろんな進路の募集かけたり、それこそ一人一人の生徒のために【未来への判断材料】を、奪取してこなければならなかったりするんだ。
あんなだけど、先生の仕事が好きなのは、誰よりもあたしが、一番よく知ってる。
『そっか。残念だけど、でも応援してるね! お仕事頑張って』
だからあたしは、足手纏いにならないよう、陰ながら応援するって。……そう決めたの。
「あー。さすがにこの天気じゃ大荒れか」
大雨でぼやけた夜の景色。いつの間に免許なんか取ったのか、杜真が走らせた車が静かに止まり、同時に雨に滲んだ世界も止まる。
「雨酷すぎてよく見えねえな……。なあ、ここで合ってる?」
「キザ男」
「車に乗って第一声がそれかよ」
嫌だと言ったのに、無理矢理乗せられたんだ。これくらいで済んでいることを、もう少し喜んで欲しいくらいだ。
けれど、あからさまに機嫌の悪さを態度に出しても、彼はただ優しい顔でこちらを見つめてくるだけ。
「……なあ紀紗」
それだけで、こいつには何もかもバレてしまっていると、わかってしまった。……ううん。カクテルが出てきたそのときから、もうわかってた。
「……キザ男」
それだけ言ってぐっと、唇を噛み締める。正確には、それしか言えなかった。次に、口を開いてしまったら……もう。
「人のこと。心配する前にすることあるんじゃねえの」
……やめて。
「向こうだっておんなじこと、思ってるよ。悩み……あるなら言って欲しいってさ」
やめてよ。
「我慢すんなって。我慢して何の得があんの。誰が得すんだよ」
やめてって言って……。
――――……
思えば。熱海以来、菊ちゃんとはまともに触れることも会うことも、話すことすらしてないかもしれない。
『……適当にぶらぶら?』
なーにちょっと見栄張っちゃったんだか。本当にぶらぶらしただけだってのに。
本当のことを言うと、期待をしていなかったと言えば嘘になる。だって、あんな夜遅くにわざわざ来てくれたんだ。誰かさんとは違って純粋じゃないから。その辺は欲求爆発したって誰も責めはしないと思う。
『あんまり時間、とってやれなくなる』
でも、そのとき言われたのはこれからのこと。そこで言われたとおり、今はまともに顔さえ見てない気がする。
しょうがないよ、学校の先生なんだし。この時期は特に忙しくなるよ。あちこちからいろんな進路の募集かけたり、それこそ一人一人の生徒のために【未来への判断材料】を、奪取してこなければならなかったりするんだ。
あんなだけど、先生の仕事が好きなのは、誰よりもあたしが、一番よく知ってる。
『そっか。残念だけど、でも応援してるね! お仕事頑張って』
だからあたしは、足手纏いにならないよう、陰ながら応援するって。……そう決めたの。
「あー。さすがにこの天気じゃ大荒れか」
大雨でぼやけた夜の景色。いつの間に免許なんか取ったのか、杜真が走らせた車が静かに止まり、同時に雨に滲んだ世界も止まる。
「雨酷すぎてよく見えねえな……。なあ、ここで合ってる?」
「キザ男」
「車に乗って第一声がそれかよ」
嫌だと言ったのに、無理矢理乗せられたんだ。これくらいで済んでいることを、もう少し喜んで欲しいくらいだ。
けれど、あからさまに機嫌の悪さを態度に出しても、彼はただ優しい顔でこちらを見つめてくるだけ。
「……なあ紀紗」
それだけで、こいつには何もかもバレてしまっていると、わかってしまった。……ううん。カクテルが出てきたそのときから、もうわかってた。
「……キザ男」
それだけ言ってぐっと、唇を噛み締める。正確には、それしか言えなかった。次に、口を開いてしまったら……もう。
「人のこと。心配する前にすることあるんじゃねえの」
……やめて。
「向こうだっておんなじこと、思ってるよ。悩み……あるなら言って欲しいってさ」
やめてよ。
「我慢すんなって。我慢して何の得があんの。誰が得すんだよ」
やめてって言って……。



