そのあとすぐテーブルに運ばれてきた料理は、一流のレストランに並ぶほどきらびやかで、とても繊細だった。待ってましたと言わんばかりに、彼は運ばれてきた料理に口をつける。どうやら相当腹ペコだったらしい。
「……これ」
「全部俺んだから」
睨むようにむすっとすると、「冗談に決まってんだろ」と彼はフォークを持った手で、そっとこちらを指差してくる。
「……あ」
彼がそうして、あたしはやっと気がついた。テーブルの上に並ぶ、たくさんの料理に気をとられていたけれど。
「今夜はディナー、……なんだろ?」
彼の目の前には大皿に盛られたナポリタンがひとつ、あっただけだった。
それをぺろりと平らげてしまった彼は、追加でまた何かを注文しようと店員を呼びつける。
「今日付き合ってくれたお礼。ちゃんと食えよ。奢りだから」
呆然としているあたしに気がついたのか、そう言ってにっと笑った。
その言葉に促され、一口ポタージュを飲んでみる。甘いものでさえ、あまり喉を通らなかったのに。それは、温かく優しく体中に広がっていった。
「美味いだろ。一流ホテルで働いていたと噂のマスターがいるときしかできない裏メニュー」
「……裏メニュー?」
「そそ。今日は閑古鳥だったからいいよー、だってさ」
「……このお店大丈夫?」
「味は一流」
確かに。彼の言ったとおり味は一流だった。
にしても、まさか本当にこんなところで働いているとは……。
「ほんとにしてるよ? 今日は、新しく入ったらしいバイトくんが急に病欠で来られなくなったから臨時で」
「待たせて悪かったな」と、早速運ばれた高菜ピラフに、彼は思い切りがっついていた。
「……ねえ杜真」
「んー?」
「……嬉しいけど、あたしこんなにたくさん食べられないよ」
「さんきゅー」
待ってましたと、またもや言わんばかりに、彼は嬉しそうにあたし用に用意してくれた料理へ手を伸ばしていた。……今日は、こいつに救われてばかりだ。
「……正直なところ、あんたどう思ってる?」
「ん? ……ま、水臭えなとは思ってるかな」
「っ、そうなの! なーんか二人して黙ってることがあるのよ絶対」
「紀紗の気持ちもわからんこたないけど、あんままわりが言ってっと、育めるもんも育めねえだろ」
「だーって! あっちゃんが大好きで大好きでしょうがないんだもん!」
「俺だって葵ちゃん好きで好きでしょうがねえわ!」
言い合ってすぐ、お互いの顔を見てぶはっと噴き出して笑う。
「そうね。ここは温かく見守ってみましょう」
「そうしましょうそうしましょう」
【日向も好きって言ってやれよ】って、両方の顔に書いてあったからだ。
別に、弟が嫌いというわけじゃない。度合いの問題だ。そう、度合いの。



