そして、雨宿りしていることをすっかり忘れた頃。ふと、あたしの妄想をフルに膨らませたマシンガントークに、マサキさんは妙なところで噴き出して笑う。
当然、どこがおかしかったのかわからないあたしは首を傾げたけれど、その頭をまた、大きな手が撫でてくれた。――元気そうでえかったわ、と。
「なんかわけがあるんやろ?」
さっきまで、少年みたいに笑っていたのに。……やっぱり彼は、狡い大人だ。
俯いたあたしの名前を、彼は小さく小さく呼んだ。
「自分に正直に生きるんが、一番難儀やな」
その言葉に、ズキリと胸の奥が痛むのを感じた。
考えたくなかったのに。もう決めたのに。その、たった一言で思い知らされる。
……真っ黒に曇っていた空に、小さな光が差してしまった。
「家まで送るわ」
ジャケットを頭の上から掛け直してくれた彼は、そっと肩に腕を回し、動けなくなっていたあたしの体を引きずり出すように、その光の方へと歩き出した。
「こんな可愛い子何回も泣かして、ほんま罪な男やで」
張り詰めていた糸が切れ言うことを聞いてくれない体でも、簡単に支えてしまえる大人な彼は、一人楽しそうに話をする。
「ちょい待ち。……今泣かしたん完全に俺やん!」とか。「なんて罪なイケメンさんなんや。さすが俺」とか。「とゆーかなんでこのシチュエーションで可愛い女の子の下着透けとらんねん! これも日頃の行いが悪いせいかあ」とか。
泣いていたあたしには、気付くことはできなかった。……ううん。きっと、これからも気付くことはないだろう。
「……そんなに早う大人にならんでええねん。俺みたいに、不器用な生き方しかできん、卑怯な大人にしかなれんで」
どんな想いで、彼は叶えられなかった夢の話をしたのか。
やっぱり大人な彼は、狡賢くて卑怯で、どこまでも不器用な人なのだと。



