『……浴衣着て、踊ったかな?』
……ハイ。ね? 言った。言いました確かに。
理事長、本当にごめんなさいっ。そしてほんっとうにありがとう!
準備・人員は、何から何までオウリくんのお父様――エンジュさんの会社にまるっとお任せ。資金を集めるだけ集めてきたらしい彼らは、どんどこ花火は打ち上げるわ櫓まで造っちゃうわ。さすが。お金有り余ってるね~。
「……あら? 馬子にも衣装じゃない」
「あーちゃん可愛い!!」
エンジュさんと、打ち上がる高額資金を見ていて不意に聞こえた声に、ゆっくりと振り返る。
「「…………」」
そして目が点になった。それはきっと、一緒にいたエンジュさんも一緒。
「つ、ツバサくんよくお似合いで……」
「でしょ? 何着ても似合っちゃうのよねー」
浴衣を着た、ど偉い美人さんがおられました。まわりの男たちの瞳も、男とわかっていてもハートだらけである。
「つーくん似合いすぎててもう気持ち悪いよね!」
「こらオウ。そういうのは言わぬが仏」
「お父さん違うよ。知らぬが仏で言わぬが花だし、意味全然違うー」
「おお、そうかそうか」
「仲良さげなところごめんけど、それ以前に“気持ち悪い”って悪口だからね二人とも」
「「あ」」
「……アンタらも女物着させるわよ」
「ツバサくん手伝うよ」
「「えっ」」
その後、目配せした二人は大慌てでわたしたちの目の前から脱兎の如く駆け出した。
浴衣でも追いつくかなと、裾を捲り上げようとしたけれど、どうやらそこまではいいらしい。そっと肩に手が添えられた。
ちょっと見てみたかったけどな。女装のオウリくんとエンジュさ……いや、オウリくんだけでいいや。
「それで? 久し振りのオカマさんは如何ですか?」
「案外抵抗ないものね」
けれど、喋り方まで戻ってる彼は、先程から元気がなく、何度も大きく息を吐いている。…………。
「ツバサくん。向こうのベンチ行かない?」
「え? 別に、いいけど……」
道すがら、今みんなはどうしているのかと聞いてみた。何となく、予想はついてたけれど。
「それぞれ囲まれてたと思うわ。今は行方不明。オウリだけ取り敢えず見つけた……いや、アタシが見つけてもらった、って言った方が正しいわね」
出待ちとはまさにこのこと。着替えて出てくると、そこにはファンの塊が。
バラバラに出てきたはいいものの、やはりみんな珍しい浴衣姿ということもあり、それぞれの場所で捕まっていたんだろう。今は祭り開始からしばらく経って、生徒たちもお祭りを楽しんでいるように見える。
「……にしても葵、アンタ出てくるの早かったんじゃないの?」
「わたしにはグリーン仮面がついてるからね!」
「なんだそれ」
「仮面は誰にとってもヒーローということさ」



