それは体育祭の係や流れが決定した会議の時のこと。確認後、すぐに各自の作業に取り掛かろうとしていると、彼から一つ疑問の声が上がった。


『ねえアキくん。今年の優勝賞品って、もう理事長用意してるの?』

『いや、今からそれをふんだくってくるつもりだった』

『ふんだくるって……』

『それで? それがどうかしたか?』


 珍しくそんなことを聞いてくるヒナタくんに、アキラくんだけじゃなくその場の全員の視線が集まる。


『そんなに見られたら言い出しづらいんだけど』


 はあと大きなため息を落としたヒナタくんは、それでもゆっくり、ぽつりと呟く。『今年、無しにしない?』と。


『代わりの案がある、と?』


 驚きで声も出せなかったわたしたちだったけど、至って冷静にアキラくんは彼にそう問う。
 束の間、押し黙ったヒナタくんは、一度だけわたしの方へと視線を流し――――


『……浴衣』


 ……えっ。


『別に、賞品はなくさなくてもいいよ。寧ろお粗末でもいいからふんだくれるだけふんだくってくればいいんだけど……』


 ドンッ――――……
 ドンッ――――……


『もしできそうならさ、浴衣着てお祭りみたいなことしてみない?』


 ――――――…………
 ――――……


「……エンジュさん」

「なんだーアオイちゃん」


 夜空に何発も上がる打揚花火に、「「玉屋~鍵屋~」」と。なんともまあ古風な声も同時に上がる。体育祭での疲れは吹っ飛んだのか、お祭りに来ている人たちからは笑顔が絶えない。どうやらこの提案は大成功みたいだ。
 けれど、あまりにもど派手なそれに、わたしはそんな言葉も出なければ、上手く笑えもしない。


「完璧、予算オーバーじゃありません……?」

「ふんだくれるだけふんだくった」

「あ、あはは……」


 完全に、提案者の大本はわたしだな。